刃に心《第8話・開幕、是即開戦なり》-1
疾風が朧の依頼を請け、演劇の稽古を始めて早一週間。
殺陣に関して言うべきことは無くなり、後は衣装合わせと事実を知らない他の部員達と合流するだけとなっていた。
《第8話・開幕、是即開戦なり》
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本番まで残すところ後僅かとなったこの日、疾風は大きな鞄を抱え、こっそりと人目を避けながら、屋上へと向かっていた。
辺りを窺い、そっと屋上への扉を開いた。
やはり、放課後まで屋上にいる者はおらず、疾風は小さく安堵の息を吐いた。
そして万が一、人が来た場合に備え、死角となる給水タンクの裏に隠れて鞄を開く。
鞄の中身は衣装及び小道具。
衣装は着慣れている忍者服だったので、手間取ることは無く着込む。
「さてと…最後は…」
疾風は眼鏡を外した。
露になる鋭い瞳。
再び、鞄に手を入れ、白く、骨のような仮面を取り出す。
それで顔半分を覆うと元の服を隠し、練習場へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
練習場前。事前に朧から着替えたら、紹介するまで練習場前で待機していてくれと言われていたので、それに大人しく従っていた。
「は〜い、皆さん。今日は新しいお友達が来てくれていますよぉ♪」
中から聞こえる朧の声。
(先輩…何か小学校に転校生が来たときの先生みたいなんですけど…)
内心でツッコミを入れつつ、ちょっと緊張などしていると…
「それでは、どぉぞ♪」
そう言って、朧が勢いよく扉を開いた。
「スタントの骸丸くんです♪」
疾風に部員達の視線が集まる。
(うっ…)
好奇や疑惑が入り交じった視線に思わずたじろぎながらも疾風は頭を下げた。
「不安なのは分かりますが、みんな仲良くしてあげてね♪」
「部長、本当に大丈夫なんですか?骸丸のアクションはこの劇の山場なんですよ?」
部員の一人が朧に問いかけた。
だが、朧はいつもの如くふわふわとした笑みを見せる。
「ご心配無用です♪この骸丸くんの正体は企業秘密ですけど、腕は確かですから♪」
「ですが…」
互いに顔を見合わせ訝しげに疾風を見る部員達。
「では、今日は骸丸くんに実力の程を見せてもらいましょう♪皆さん、準備をしてください♪」
朧がそう言うと、20名程の部員達は準備に取り掛かった。