刃に心《第8話・開幕、是即開戦なり》-3
「明日だな…」
「そうだな…」
つい、しみじみとした口調になる。
「楽しみにしておるぞ♪」
「あんまり期待しないでくれよ…失敗したらどうしようって、ずっと思ってるんだから…」
不安は少しずつ大きくなってきていた。朧や霞、その他の部員達が真剣な分、自分が足を引っ張るわけにはいかない。
「失敗を恐れるな。それに失敗したときは台本ではなく、疾風、お前の好きなようにやれば良い」
そんな疾風に楓は真っ直ぐな言葉を述べた。
「臨機応変に対応することが大切なのではないか?」
「………」
疾風は虚空を睨み、難しい顔をした。
「まあ…失敗しないのが一番だがな♪」
楓の顔がほころぶ。その笑顔に不思議と疾風の気持ちは楽になった。
「まあ…そうならないように練習してきたわけだしな」
そう言って疾風は鞄を持った。楓も隣りに並び、帰ることに。
「なあ、疾風…本当にあれをやるのか?」
「あれ?」
「…ほら…その…朧殿との…」
口ごもる楓。
疾風は朧と言われ、抱き合う演技のことを言っているのだと気がついた。
「…やるしかないだろ。そう台本もできているんだし」
「…信じておるからな」
楓は言った。だが、やはり納得しきれてない様子だった。
「分かってるよ。向こうもそのつもりだよ」
「…だ、だがな…その…万が一ということも…」
「それに、月路先輩ファンは濃ゆいというか…何というか…只でさえ今度の演劇で抱き合うシーンがあるっていうので、結構ピリピリしてるのに、本人に手を出したなんて噂が広まったら殺されかねないよ…」
おっとりとした朧本人に反比例し、そのファン達は危険思考の過激派が多い。
「…私も手を出したら許さぬ」
楓の身体から迸る真っ赤な危険オーラに疾風は押し黙るしかなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そして、本番当日。
「かえちゃん、楽しみだね♪」
「そうだな♪」
楓のことをそう呼ぶのは希早紀。
会場のほぼ中央、楓に希早紀、武慶、千夜子。その後ろにはヒロシとユウが彼方を挟んで座っていた。
「そうだ。かえちゃん、疾風くんは?」
「は、疾風は…その…風邪をひいてしまってな…今日は来ぬのだ」
もちろん嘘である。まさか、劇に出ているとは言えない。
「そうなんだ…残念だね…」
そんな会話をしているとブザーがなった。
「始まるみたい♪」
辺りは暗くなり、少しずつ幕が上がっていった。