刃に心《第8話・開幕、是即開戦なり》-2
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稽古は順調に進んでいった。
主に霞とのアクションのみをこなしていた疾風にとっては多くの役者や裏方により劇が進められていく様は見ていて面白かった。
物語は進み、いよいよ疾風のアクションシーン。
再び部員の視線が疾風に集まる。
疾風は目で霞に合図をした。それに対して霞は僅かに首肯。
「…貴殿の主君はこの先だ」
霞が台詞を紡ぐ。
疾風は台本通りに、苦無を放った。
それを霞が躱す。
「御託はいらぬか」
二人は苦無を構えた。
ガガッ!ガキン!バシッ…
流れるように疾風と霞の殺陣が繰り広げられる。
横薙ぎから裏拳、それを右腕で防ぎ、疾風が苦無を突き出す。
他の部員から称讃の声が上がった。
疾風は内心、ちょっといい気分になったが、決して表面には出さない。
次の動きを頭に思い描き、冷静に実行する。
いくつかのアクションを済ませ、次で最後。
腰に佩いた短刀を抜き払った。
真っ直ぐに構え、一気に霞の胸元に刺し貫く。
カシャン…と霞と疾風にだけ聞こえる小さな音。
苦無と違い、こちらは偽物だった。尖端が何かに当たると押し込められる玩具。台本ではこの後、霞に仕込まれた血糊が吹き出ることになっている。
疾風が玩具を引き抜き、霞が膝から崩れ落ちたところで、部屋には拍手が響いた。
「稽古になりませんよ♪」
そう言う朧もパチパチと手を打っている。
霞が立上がり、二人は頭を下げた。
「異論は…あるはず無いですよねぇ♪」
当たり前だと言わんばかりに拍手は部屋中に溢れた。
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「ふぅ…」
疾風は忍装束を脱ぎ、ほっと一息吐いた。
最後の稽古が終わり、いつも通り誰にも見つからないように着替えを済ませる。
やはり、部内では骸丸の正体について噂が飛び交っていた。
例えば、仮面の下は特殊訓練兵だとか、日曜の朝に子供のみならず、お母さん方にも格好いい人気のお兄さんだとか…
しかし、そこは本当に忍の疾風。人を煙に巻きことを得意とし、闇と共に生きる本物の忍は一般人に正体を暴かれることなど有り得ない。
「明日か…」
不安だらけで飛び込んだ演劇だったが、月日がたつのは早いもので本番は明日。
───ガチャ…
扉が開き、疾風は咄嗟に物陰に身を隠す。
「隠れるでない」
「楓か…」
相手が楓だと分かると疾風は姿を見せた。