Endless-1
「ひぃぃ……!」
あたしの声にならない絶叫。
狂った時計軸に捉われたあたしの悪夢が繰り返されてゆく。
いや、狂っているのはあたしだろうか。
…始まりは、
何の変哲もない日常の
何の変哲もない午後だった。
ぴちちちち……
雀だろうか。あたしが寝転がる丘の土手の彼方から、耳に心地よい鳴き声が聞こえてくる。
背中を押す芝生の柔らかさで首の裏側がこそばゆいけど不快ではない。
薄い黄緑の若葉に包まれ、あたしは昼下がりの午後、制服のままで土手の真ん中でうつらうつらと微睡んでいた。
ふと、重くなってゆく視界の隅に、この柔らかい緑の世界に似付かわしくない枯れ木が映った。
葉は全て剥かれ、寒い肌を覗かせている。
こんなに暖かいのに。
ああ、あとはもう死を待つだけなのね、
なんてぼんやりと思う。
その枯れ木の一番上にこんもりと乗っかる黒い影。
いや、白い影。
目を細めて確認したその姿は、枝にさっくりと刺さった小さな子兎だった。
真っ白な毛地の、枝と繋がった部分だけが赤くなっている。
にわかに
あたしに鳥肌がたつような興奮めいた訳の分からない感情が芽生えた。
――百舌鳥のはやにえだわ。
死にゆく灰色の樹に
鮮やかな白の死んだ子うさぎ。
真っ青な天に堂々と曝け出したその姿は美しかった。
…あたしは百舌鳥の帰りを待とうかと思い目蓋をこじ開けようとした。
が、努力も虚しくあたしの意識は寸刻で深い闇に呑まれてゆく――‥
それから何時間経過したのかは分からない。
目蓋を差す青。
意識を手放す前と何ら変わりない空の色に、目を細める。
――あら?
枯れ木に目をやったあたしは、その姿が変わっていることに気付く。
子うさぎの姿が無くなっている。
どうやらあたしが寝ている間に百舌鳥が来てしまったらしい。
あああ残念。
ぴちちち……
突然響いた鋭い鳴き声に首を傾ける。
百舌鳥だろうか、あたしに向かって一羽の鳥が舞い降りてきていた。
だんだんと近づくその姿は、どんどんと大きくなり…どんどんどんどん大きくなる。
迫りくる百舌鳥の巨大さに軽く戦慄を憶える。
まったく冗談じゃないわ
鉤爪なんて鷲みたいに大きくて鋭くて…
てか何でこっちに来るのよ?
そう思った瞬間、あたしの背中を掴んだ百舌鳥があっさりと舞い上がる。
踏みしめる場所を失ったあたしの真っ白な足が、ばたばたとみっともなく揺れ………え?
何これ、あたしの足が兎の足になってるじゃない。
あたしは長い耳を震わせ、ルビーのように紅い瞳で土手をただ茫然と見下ろしていた。