特進クラスの期末考査 『淫らな実験をレポートせよ』act.4-12
「ばーか」
「なひすんのほっ」
「膜の有る無しにこだわってんなよ」
矢田の声は笑っていなかった。
「無いから処女じゃ無いのか?血が出ないから処女じゃ無いのか?……違うだろ」
つまんでいた指を放して、くしゃくしゃと頭を撫でた。
「現に、こうして桜ちゃんが一生懸命に俺を受け入れてるんだ。それだけで充分なんだよ」
(……矢田、矢田、矢田…)
こぼれる涙を隠す様に、桜は矢田の首に腕を回した。
涙が頬を伝い、顎を伝い、矢田の首筋にこぼれた。
「好きだよ。桜ちゃんが、大好き」
矢田の唇が桜の耳をくすぐる。そのまま舌が耳の外側から首筋へと這っていく。
桜の肌は敏感に反応し、勿論胎内もきゅっきゅっと矢田を締め付け、甘美な声を発した。
「……動くよ」
気が付けば、締めっきりの部屋は夏の蒸し暑さを凝縮させ、二人共じっとりと肌を湿らせていた。
じゅぷ、にゅぷ…
ゆっくり動く度に、皮膚同士の摩擦音が響く。
「んんっ、っくぅ…」
喉奥から絞り出す桜の声が矢田を熱くさせた。
余裕ぶっている暇なんて欠片も無い。初めての桜を気遣うだけで精一杯だ。
本当は思うがままに動いてしまいたい。そんな弾けそうな理性を保てるのは、他でもない桜の瞳だ。
オニキスの様な深い漆黒の瞳が、涙のヴェールに包まれながら自分を見つめている。
我慢しろ、優しくしろ、大事にしろ、と警告するのだ。
「……矢田、っくぅ、んんっ、っあ…矢田ぁっ」
ヤダではない、矢田…自分の名前だと自然に受け止められた。
愛しい声。囁きが脳天から一気に下半身まで突き抜ける。甘い、甘い……その声だけで溺れてしまいそうだ。
っちゅ…ずちゅっ……
「桜ちゃん、桜ちゃん……!」
眉間に皺を刻みながら、柔らかく腰を使った。緩慢な動きだが、奥を捕らえる度に桜は熱い息を吐く。
締め付けがキツい。突くのでさえ放り投げたくなる程にツラい。
……正直、矢田も限界だ。
「桜ちゃん……お、俺…もう……」
桜の頭を挟む様に着いていた手が震える。段々と痺れて、感覚が無くなっていく腰も限界だ。
桜はつらそうな矢田を見つめ、瞼を閉じ唇を少し突き出した。
キスの催促。唇を重ねると桜の優しさが伝わってくる。
大丈夫だから。好きよ。ね、矢田。もっと愛して。
幻聴かもしれない。キス繰り返しながらも矢田は考える。
だが、考えても考えても砂嵐の様に目の前がぼやけてしまい、ただただ吐き出したい思いで一杯だ。
キスをしながら目を開くと、視線を感じた桜と目が合った。
キスの途中で見つめ合うのは初めてだ。自分のモヤモヤした気持ちを見透かされた様で恥ずかしかった。
…………。
ゆっくりと桜がまばたきをした。
目は口ほどに、ものを言う。
頷いてくれたのだ。矢田の、心に押し込めた暗い気持ちに。
泣きたくなった。
唇を噛み締めながら、ずんっと突いた。
桜の優しさに泣きたくなる。