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『定例会』
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『定例会』-3

 「違うよ。顔じゃない。ついでに体型とかでもない。」
 そんな私のそぶりを、佐藤君はそういって遮った。
 「じゃあ、何が?」
 「だからさ、なんとなく。強いて言うなら、雰囲気、かな。…ちょっと違うか。まあ、とにかくさ、なんか言葉では言い表せない何か。形じゃない何か。」
 そういうことにしておいて。と佐藤君は言った。
 私はまだ納得が行かなかったけど、何となく分かる。私の場合は、何回か話していて気付いたのだけれど、私たちは「何かが」似ている。そんな気は確かにする。
 「つながってるんだよ、きっと。」
 と佐藤君は言う。
 「見えない糸かなにかでさ、俺たち。」
 ふうん。と私は言った。
 そうじゃなきゃこんなに偶然に会ったりしない。と佐藤君は付け足す。
 でも、その糸が結ばれているのは、一番細い指にじゃないし、色が赤なんかじゃないのは、お互いに何となく分かっていた。私たちの間には、色んな「何となく」がある。というよりも私たちの間にあるほとんどのものが「何となく」なのだ。私たちは互いに名前しか知らないし、会う場所はここに限られている。その機会もほぼ完全に偶然に支配されているのだ。形あるつながりは、無いに等しい。けれどその曖昧さは、むしろ私を心地よくさせる。多分、私たちはお互いの自分の孤独を愛しているのだ。私たちは、孤独を維持したままに、互いに通い合うことができる。触れ合わずに、向かい合うことができる。その関係が、間合いが、心地いいのだろう。あるいは、私と佐藤君の似ているところというのは、そこなのかもしれない。孤独。他に似ているところといえば、本をよく読むというところか。
 いや、そういえば
 「そういえば、佐藤君、小説書いてるって言ってたよね。」
 「言ってたよ。それに実際書いてる。」
 「どんな小説?」
 それには興味があった。すごく。佐藤君の書く小説はきっと面白いに違いないという確信が「何となく」私にはある。
 「とりあえず、結構長い。小説を書き始めるとさ、それが自分のための小説である場合はかなりその傾向が強まるんだけど、色々と余計なことを書かずにはいられなくなるんだ。色々な要素が組み合わさっていく。それで途中で訳が分からなくなってくる時もある。でもそういうのが綺麗に繋がりあうと。それはとても立派な木みたいになるんだ。」
 「立派な木?」
 と私は言う。
 「うん。複雑に枝分かれしていて、様々な色や大きさの葉がついていて、そうだな、花や実がついていればもっと面白いかもしれない。でも、それでいて葉の形は違わないし、真ん中に太い幹がある。根っこもしっかりしてる。風が吹くとざわざわといい音を立てて揺れる。でも倒れない。」
 私はそんな木を想像してみた。立派な木だ、と思った。
 「でも立派な木をつくるのはとても難しい。適切な量の水や栄養、光、夜の闇もちゃんと必要だ。根気もいるし、時間もいる。でも一生懸命やれば、何とか形にはなる。そうやってできた木は、見てくれは悪くても、何かしら見る人の心に影響は与えられるものだと思う。そう信じたいね。」
 私はその言葉ひとつひとつをしっかりと記憶しようと黙って聞いていた。後で考えたり組み替えたりできるように。
 それから私たちはとりとめもない話をして、冷めたコーヒーを飲んで、それから約束をした。
 「今度佐藤君の書いた小説を読ませてよ。」
と。
 「多分面白くは無いと思うよ。」
 と佐藤君は帰り際に言った。うん、多分面白くはないと私も思う。けれど、きっとそれは私の心に何かしらの影響は与えるだろうということは分かっていた。


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