興味はゼロ!-1
この世界は物質にあふれた現実の部分と生き物の感情からうまれた精神の部分が存在し、それらが互いに影響しあって成り立っている。これはそんな世界のお話。
第一章
ピーチカーネル市に住む生真面目な青年、アシタバ・セリカは熱心な学問信者だった。というより学問愛好家というべきだろう。教えに従うことはストイックであればあるほど、彼の中の自分が満足する。つまりそれが彼にとって最も安心できる人生の過ごし方なのだった。
そんな彼が酒場で働く娘、アルテミシア・シルバーに恋をした。
「でな、アシタバ、この民族の雨乞いダンスってのはよぉ、百発百中なんだよ。なぜだか分かるかい?」
小柄でむっくりした体格のバジル・レタスリーフが上機嫌で話した。
「もう、この人ったら気分がいいと、この話ばっかり。あたしなんて三度目よ!」
そんなふうにあきれかえるのは、バジルの恋人、チコリー・ブルーだ。色白でパッチリした目がとてもかわいらしく、なぜバジルがこんな美人と恋人同士なのか、それはピーチカーネル市中の謎だった。
「僕もこの話は一度聞いたよ、バジル。」
すらっとした長身に短髪の似合うほっそりとした輪郭の青年、アシタバが答えた。そこへ隣のテーブルを片付けていたアルテミシアが話に入ってきた。彼女はこの酒場の看板娘で明るくて甘え上手な性格で、その上世話焼きなのでどの客からも親しまれていた。
「あら、おもしろそう。ねえ、バジルさん、どうして百発百中なの?」
「お、アルテミシアちゃん、今日も色っぽいねえ。そいつはなぜかと言えばよお、その民族のダンスはな、プッ…フフ、雨が降るまで続くからなんだよ。ぎゃははは。」
話の途中からふき出しながら、バジルは下品に笑い出した。
「あ〜あ聞いちゃった。アルテミシアには気の毒だけど、この人この話あと二回はするわよ。」
「いや、三回だな。」
アシタバがチコリーに続けて言った。
「アルテミシアちゃん、麦酒をジョッキで三つ頼むよ。それとアシタバにスマイル一つ、とびっきりのやつな。ここ最近アシタバのやつ、アルテミシアちゃんの事がお気に入りみたいだからよぅ。」
そう言って、バジルはアルテミシアにウィンクした。
「な、何言ってんだよ!し、失礼じゃないか。…ごめんよ、アルテミシア」
アシタバは慌てて誤った。
「あら、べつに私は気にしないわよ。ありがとね、アシタバさん。」
そう言うと、短いスカートをヒラヒラさせながらアルテミシアは厨房へ入っていった。
「え、ありがとって…」
「あらぁ、アシタバったら本当にアルテミシアがお気に入りなのねえ。」
チコリーがからかい混じりに言った。
「ち、違うよぅ!」
「なんだ、じゃあいつも目で追いかけてるのはアルテミシアちゃんのお尻と太ももだけか?」
「何言ってんだか…」
アシタバもチコリーもあきれてしまった。しかしこの店は特別いかがわしいというわけではないのだが、制服用のドレスが短く、ウェイトレス達の太ももがチラチラと見えて刺激的だった。加えて、アルテミシアはスタイルもよくバストも大きかったので、男性から評判がよかった。
「でもさ、アシタバみたいに真面目で誠実な人ならアルテミシアも嫌がらないんじゃない?ねえ、バジル」
「ああ、そうだとも。お前は俺と同い年だからもう23だろう。二つ年下のアルテミシアちゃんなんかぴったりじゃないか。なんといってもお前は根暗だからよぉ、アルテミシアちゃんみたいに明るい子とつきあった方がいいんだよ。」
「…別に、僕はなんとも…」
するとそこへ、アルテミシアが麦酒のジョッキをもってやってきた。ふと、アシタバは会話が聞かれたのではないかと、ヒヤッとした。
「はい、ご注文の麦酒。」
麦酒を一人ずつテーブルの上に置く。そしてアシタバの前に置くとき、何気なくアルテミシアはアシタバに話しかけた。
「アシタバさん、毎日学問漬けなんでしょ?ここに来た時くらいは羽を伸ばしてゆっくりしていってね。」
「あ、ああ、ありがとう。」
アシタバのその様子を見て、バジルとチコリーはお互い顔を見合わせてふきだしてしまった。
彼の態度から察するに、実際アシタバはアルテミシアを愛しく思っていた。しかしバジルとチコリーにはその事実がにわかには信じられなかった。