興味はゼロ!-5
第六章
その晩、アーティは夢をみた。その夢の中で自分に意識と体があることに気づいた。
「僕は…夢を見ているのか…」
今までも夢をみているとき、「今夢を見ている」と感じることはあったが今日ほどはっきりと意識があることはなかった。
アーティは夢の中を歩き出した。というより進みだした。なにしろ何もないので、自分が立っているのか浮いているのかもわからない。何もない夢の世界、白いのか黒いのかもわからない。しかし体と意識はあることがはっきりとわかる。そのなかで、やがて亀の甲羅のような色をした無数のうろこで覆われた巨大な竜に出会った。
「あ、あの…」
口を開き、声を出して話しかけた。しかし竜はぴくりとも動かない。すると突然、アーティの頭の中に聞いたことのない男の声が響いた。
「この方が話しやすいだろう。わたしはアシタバ・セリカ。かつて現実の世界で人間の体を持っていた頃はそう呼ばれていた。」
アーティも意識の中で答えてみた。
「あ、アシタバさん…知識を食うという、あの?」
「ああ、そうだ、それでいい。それとわたしの事はアシタバでいい。わたしは知識を食っているつもりはない。奪い取るわけではないからな。竜に見えるだろうが、実際は今のわたしには実体がない。ここは夢の中であり、精神の領域だ。物質や実体は存在しない。ただ、意識があるだけだ。」
「…ごめんなさい、よくわかりません。」
「よかろう、ならばこの話はここまでだ。君の名は?」
「僕はアーティ・チョークです、アシタバ。」
竜の姿は凶暴さゆえではないことと、知識を食われないとわかって、アーティは安心して答えた。やがてアシタバの声が聞こえてきた。
「アーティ、さっきも言ったがわたしは知識を奪ったりはしない。偶然に支配された精神の出会いの中で、わたしは新しく出会った意識と知識を共有したいのだ。君の知識をわたしが共有することを許してくれないか?」
ふと、偶然出会ったと聞いて、アーティは当然のようにアシタバが自分の夢の中にいることに疑問を感じなかった事を急に不思議に思った。
「ああ、いいですとも。ともに楽しみましょう。しかしさきにあなたの事を知りたい。アシタバ、あなたはなぜ竜の姿なのですか?」
「答えよう。人間だった頃からすべてを喰らうがごとく知識を求めていた気持ちが、このような姿を産み出したのだろう。知識は竜になってからさらに集めることができるようになった。わたしは、人間の体から竜の姿になったことに満足している。」
意識のみのやりとりだが、不意にアーティはアシタバが寂しげな感情を持っているような気がした。うむ、とうなずくと、その理由に納得できるようしばらく考え、そして次のように話した。
「あなたは人間として人間の中に生き、その結果竜の姿になったことで、それが人間としてのあなたが出した結果として、無理に納得しようとしているのではありませんか?失礼、気に障るでしょうが、どうか僕の知識による考えを試させてください。」
竜の意識は特別な反応を見せなかった。そして当たり前のように答えた。
「ああ、その通りだとも。君のようにわたしを深く理解してくれる意識には度々出会うが、みな、わたしの感情を理解し、共有してくれた。アーティ、君もどうかそうしてくれないか?」
意識のアーティはニコッと微笑むと、毅然として答えた。
「お断りします。」