優しい手-1
はじまったのはいつの頃からだろう。
くしゃり、と私の髪の毛を優しく梳かす癖。
その手が大きくてとても安心できた。
気付いてしまったのはいつの頃からだろう。
そんな彼の癖が、まるで子供にやっているようで
いつまでも隣に並べない気がして苛立った。
「子供扱いしないで!」
怒った私にあなたはまた優しく髪をくしゃり、と梳かす。
「してないよ。」
いつもの落ち着いた声。
微笑む瞳。
それすら今の私には子供扱いされている気がしてならない。
ぐっ・・・と唇を噛み締める。
「髪に触れられるのは嫌かい?」
困ったように眉を顰める彼。
嫌、なんじゃない。
嬉しいのに悲しい・・・上手く言えないから無言になる。
「僕は、この方法以外にキミに触れられる術を知らないんだ。」
とくん、胸に響いた台詞。
「・・・私に、触れたいの?」
勘違いだと辛いから、恐る恐る聞いてみる。
「ん、僕はキミが好きだからね。」
さらりと直球ストレート。
顔を見ればまるで何かを成し遂げたような満足した笑顔。
子供扱いされてたんじゃない。
私は子供だったんだ。
自分の気持ちも伝えずに、彼を責めていた。
「私だって、ずっと好きだったもん。」
いつから、なんて忘れてしまった。
気付いたら彼が好きだった。
ずっと、ずっと・・・。
くしゃり、彼が私の髪を梳く。
その手がゆっくりと左の頬に降りてくる。
そして目の前に影が落ちて
そっと優しいキスをした。
それはとても柔かくて
それはとても温かくて
新しい恋物語の幕が開いた。
〜Fin〜