〜甘い果実〜-1
春のうららかな日差し。穏やかな日常を切り裂くように、突如小高い丘の上にある白亜の瀟洒な洋館が耳をつんざくような爆音とともにびりびり震える。
畑に出て野良仕事をしていた人々はぎょっとしたように音のしたほうを見上げていたが、すぐに皆何ごとも無かったように元の作業に戻っていった。
「今日もケインさんとこはにぎやかじゃのう」
「いやいや、まったく。最近はアレを聞かないと、一日が淋しくて仕方が無いんですよ」
「おお、ウォルコットさんもですか。わしも実はそうなんですよ、はっはっは」
対岸にいる人々はこうして日々を過ごすのである。
「りぃ〜〜〜〜ぐぅ〜〜〜〜っ!!」
もうもうと黒煙の満ちる廊下を大またで歩いていく男がいる。
彼の名はケインス・ハイネリア。当年とって二十六という若さにして丘の上の館の当主である。
腰まである長い艶やかな髪。
モデル顔負けの長身に抜群のスタイル。
かてて加えて眉目秀麗な顔立ちは女性の心をいとも簡単に虜にすることが出来るだろう…が、今の彼では逆に怯えさせるのが関の山だ。濃い眉、長い睫毛など、本来なら甘い雰囲気を漂わせるはずのそれは怒りにぶるぶると震え、過去に受けた右目の疵と相まって鬼気迫る形相となっていた。
と、どかどか廊下を踏み鳴らす彼の足音がある部屋の前で止まった。全ての元凶である小さい悪魔の部屋だ。