〜甘い果実〜-9
「…………」
「ボクが居なくなったら、……淋しい?」
「…そりゃあ、淋しいだろう」
「ボクは…ボクだったら、やだよ」
ふ…と顔を逸らしたときの表情は、明らかに恋する乙女のものであった。
「リグ…」
「家に帰るってことはね………ボク、もう二度と…ケインちゃんに会えなくなるってことなんだ」
その言葉にケインはどきりとする。
そして、リグの言った言葉の重さに初めて気がついた。
にぎやかで騒々しい日々。しかし、それでも決して不快ではなかった。いや、どころか…楽しかったと言っても良い。
幼くに片親を無くし、厳格な家庭で育てられた彼にとって、同じ境遇にありながらも素直で明るいリグの存在は…いつしか重要なものとなっていた。
「そ、それは…だが、だからといってこうまでしなくとも…」
照れ臭くなり、鼓動が早くなったのを悟られまいと話題を変えるケイン。
「それは…」
続くリグの言葉に、よりケインの胸が締め付けられる。
「ボク、ちょっとでも長く傍に居たかったから…」
真摯な眼差しで見つめる少女の面持ちに、ようやくケインは気付いた。
リグが自分に寄せる想いの大きさに。
軽い思いつきで言ったはずの提案に対するリグの覚悟に。
自分の愚かさにケインは呆れる他無い。