〜甘い果実〜-4
リグと呼ばれる少女の正式な名前はリーフグラウウェン・シュタインヘルツ・ノイバウンテンと言う。
彼女は西欧にある小国、シュタイン公国の第一皇女にして正統なる後継者でもある。だが、世襲制をいまだに色濃く残す公国としてはリグに後継ぎを求めなくてはならない。そして現在、その候補として公国の隣にある大国、リンドルムの皇太子が城に来ていたのだ。
そのことをケインは知らない。彼は突如ジェット機に乗って逃亡してきた彼女がかくまって欲しいと言ったので、いつもの如く何も聞かずに泊めていたのに過ぎない。
「だめ、といわれてもなぁ…」
心底困ったような声でケインが呟く。
ハイネリアは歴史ある軍人の家系である。そのため父、そして今は彼も連邦軍の中でそれなりの要職に就いており、このような館に住むことが出来る。
だからといって、小さいとはいえ国家と資産を比べるべくも無い。
この調子で実験費諸々が飛んでいくとあと一月と経たずに身上を潰しかねない。
病いで隠遁した父が聞いたらどう思うか…
一方で、リグの複雑な家庭環境を知り、共感できるものを持つ彼としては、自由な間は彼女に出来る限り好きにさせてやりたいとも思っている。
もう一度、深い溜め息。
既に怒気は完全に失せている。
どうしたものかと悩むケインはすがりつくように目を潤ませ見上げるリグと目があった。
「お願い、お願いだからかくまっててよぅ…」
「いや、しかし…」
「何でもするから、お願いだよケインちゃん〜」
「…何でも、か」