〜甘い果実〜-27
「ところで…」
「ん?」
「何ゆえ、こちらで作業をなされているので?」
「うっ…」
どう答えたものか、一瞬答えに詰まってしまう。
「…まあ、たまには気分を変えてみるのも良いかと思ってな」
「なるほど。それは一理ありますな」
大きく得心したように頷くセバスを横目に、ケインはこっそり安堵の溜め息を吐いた。
まさかリグが寝室で寝ているから、起こさないように場所を変えているなどとは口が裂けても言えない。
もし、一国の皇女、しかもまだ年端も行かない少女と一線を越えたと知られたらどうなることやら。
実の父親より身近な存在である彼の反応を思うと恐ろしいことこの上ない。
温和そうに見えて、セバスは色々と恐ろしい男なのだ。
そんなケインの不安をよそに、セバスは傍で普段と変わること無い穏やかな表情でパイを食べ終わるのを待っていた。
「…ふむ、甘すぎず…実に見事な味付けだな」
「お褒めに預かり光栄です、坊ちゃま」
確かに、今日のアップルパイは格段に美味い。あっという間にケインは食べ終え、セバスに空いた皿を手渡した。
「さて、坊ちゃまはまだしばらく掛かるようですから、私は先に失礼させて頂きます」
「ああ、そうしてくれ。火元などは私が落としておく」
「はい」