〜甘い果実〜-2
「入るぞ、リグ」
一声掛けるが返事は無い。
そのまま怒りに任せて開けようかとも思ったが、相手が(一応は)レディであることを思い出し、深く息を吸ってからノックした。
コン…
一回目は音がした…が、二度目の裏拳は虚しく宙を叩いたに過ぎなかった。
軽く拳が触れた途端、ドアは土煙をまきあげ部屋の中心へ倒れたからだ。
「…………」
数分前までドアだったものには目もくれず、ケインは部屋の中央を睨み付けている。捜し求めた相手は元が何だかわからない残骸の中でひっくり返っていた。
「け、ケインちゃん…」
年のころは十歳くらいだろうか、今はまだあどけないといった方が良い顔立ちだ。それでも爆発で生まれたすすの下に隠れた色白な肌とくっきりした目鼻立ちは、あと数年もしたら絶世の美女になるに違いない。
「あ、あははははははは…」
ひっくり返ったままでいる少女は慌てて捲れあがったスカートの残骸を抑えながら真っ黒になった顔を引き攣らせていた。
「れ、れでぃの部屋に入るときはノックしてよぉ」
「ノックはした…が、扉が無くなった」
低い。ケインの声は実に低い。普段の数オクターブは確実に低くなっている。
「あ、え、え〜とぉ…じゃ、じゃあご機嫌は…」
「よろしいように見えるのか、お前には」
それまで閉じられていた部屋から洩れ出る風のせいか、ケインの長い髪がざわざわと不気味に揺らめく。