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『侍女の独白』
【サイコ その他小説】

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『侍女の独白』-1

 あの白いフクロウは嫌い。
 わたしが王様のためにお食事を用意をしている時、お后様の美しいドレスに繕いを当てている時、王子様のお部屋でお片付けや、同じ侍女同士のおしゃべりに花を咲かせている時、何処からともなくその白いフクロウはやって来て、いつもわたしにお説教をする。
 
「あなたはこんな処に居てはいけません。この城の悪い王に魔法をかけられているのです。このままでは元の世界に戻ることが出来なくなってしまいます。さぁ、早く此処からお逃げなさい」
 
 そんな時はいつも、箒を振り回したり、手元にあるものをめったやたらと投げつけてやれば、驚いた顔で帰っていく。
 
 このお城の王様が悪い王様ですって、そんな嘘に騙されるもんですか。確かに幼い頃、王様のお母様に化けた邪悪な魔女に呪いをかけられ、狼の顔に変えられてしまったと聞いたけれど……。
 
 短気で、気難しく、時には私たちを殴ったりする姿には心底怖いと思ったりもするけれど……。
 
 夜、お后の目を盗んで寝所に御越しになる王様は、その時だけは呪いが解けるのか、幼子のようにわたしの胸に顔を埋めてくる。
 あぁ、愛しい王様。いつかわたしもお后の一人になれるかしら。あまたの王妃を蹴散らして、一番の寵愛をお受けすることが出来るようになるかしら。
 
 王様は今日、お出かけになっている。
 
 三人の王妃は毎日毎日お出かけになる。いつかわたしも毎日お出かけするようになるのかしら。いつか王様と二人だけで、野に咲く花を摘みながら何時間も過ごせるようになるのかしら。
 
 あぁ、頭が痛い……。
 
 また王様にお薬をわけていただかなければならない。
 頭が痛くなると決まって変な幻を見てしまう。
 あの白いお節介なフクロウが、仕立てのいい洋服をきて、襟にバッジを光らせた法律の番人に見えたり、この立派なお城が、ただの古びた田舎の一軒家に感じたり、愛しい王様が、禿げて太った中年の、ただの親爺に思えたりする。
 
 これがきっと魔法なんだわ。
 
 あの白いフクロウが、わたしをこの城から追い出すためにかけた呪いかもしれない。 
 何が白フクロウなものですか、きっと悪魔の化身に違いないわ。
 
 さぁ、早く仕事を済ませてしまわなければ、お后様達がお帰りになる時間だわ。ディスカウントショップで買ったジーンズの裾上げをしなくっちゃ……。
 
 ディスカウントショップって何?
 ジーンズって?
 
 あぁ、頭が痛い……
 お薬が欲しい……
 
 早く仕事を済ませて、お食事の支度をしなければ、もうすぐ王様が、駅前のパチンコ店からお戻りになられる…… 
 
 
 
        end


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