伝えられないコトノハ-1
「長谷川?」
小さな声が資材室の窓の外にいた僕を呼んだ。
「こんなとこにいたの?」
「あれ? 落合じゃん」
僕が上を向くとキミと目が合う。
「うっわ。顔色、悪っ! どーしたの?」
僕を見下ろすキミは、怪訝な顔をして叫ぶ。
「職員室のタバコの匂いにあてられてさあー。酔っちゃった」
ヘラッと笑ったらキミはキミは僕の額を指先で軽く叩いた。
触れられた所から少しずつ熱が戻ってくる。
「茶化さないでよ」
キミの透明な瞳を見つめた。
大きな目が僕を案じている。
「うん……。茶化しては、ないよ?」
僕が戸惑いながら言った言葉に、ため息をつくキミが見える。
「どーかした?」
失いかけた笑顔を、一つずつ組み立てながら僕は立ち上がった。
頭一個分上に、キミの瞳があった。
「強情」
キミがムッとている。
「落合も十分強情。どいて、あがるから」
窓の桟に手をかけると、キミが細い手を出してきた。
「なに?」
「あがるんじゃないの?」
頬を赤く染めたキミがいる。
その手に触れる。
僕の冷たい手の中にキミの熱が流れ込んでくる。
ああ。キミが好きだ。
そう思っている自分をバレらさないように、顔に力を入れた。
窓を跨いで室内に入る。
ひんやりとしていた。
僕を覗き込んでくるキミの顔に触れたい衝動を堪えて、僕は微笑む努力をする。
「まあ、委員長サンがこんな所で油を売っていたことは、内密にしといてあげるわ」
不敵に微笑んだキミは、スカートを翻すと近くにまとめてあった角材を持った。
くすりと鼻で嗤うキミが角材を振りながら、言う。
「そのかわり、殴ってあげようか?これで」
歪められたキミの唇の、その赤さに僕の中の血が沸き立つ。
「それは止めて。落合さん」
キミの手の中にあった木材に僕は触れる。
そんなものに触れただけでも、僕はキミに触れた気分になるというんだから、アホだ。アホ男児。