伝えられないコトノハ-2
「何? 持ってくれるの」
不思議な顔をしたキミが僕を見つめた。
窓から差し込む白い光がキミの白い肌を照らしていた。
高い鼻の上に、桜色の頬に微かにあるそばかすが、光の加減で一瞬消えた。
「うん。持つよ。悪いね、香夏。オレの仕事なのにやらせちゃって」
おどけた口調に、キミの名前を挟み込んでみた。
ただ名前が呼びたかっただけで。
一瞬、好きだと思う気持ちにあらがえなかった。
結構な冒険。
木材を受け取りながらキミの顔をみると、照れたのか頬の赤みが増している。
「別にっ。消えるなら、どこ行くかくらい言って消えてくれない。あんたの居場所みんなあたしのとこに聞きにくるんだから」
頬を膨らませたキミが怒ったように言う。
「ごめんごめん。今度はじゃあこう言って。湊人くんはたこ焼き食べに行きましたってさ」
「はぁ? たこ焼きぃ?」
「落合のほっぺたみてたら食べたくなった」
そう言うと、キミは眉をつり上げて怒る。
「何それ! めっちゃめちゃ失礼!」
怒って拳を振りあげるキミが愛おしくて、抱きしめたくなる。
自分の内に沸き立つ欲望を、僕はせき止めようとまた力を入れた。
「お腹減って死にそうなのだよ。オレはアン○ンマンだから」
くっとキミののどが鳴った。
意地の悪い笑い方。
それは僕だけの前でしかされないことを、知っている。
キミは僕を嫌いなのかもしれない。
なのに僕は、キミを好きらしい。
精神的に相当なマゾヒストだ。
「アン○ンマンじゃなくて、湊人はショクパ○マン」
キミが丸い瞳を歪めて僕をみる。
ゾクッとしたものが何か、頭のどこか深いところから脊椎の中を奔り、体の隅々まで伝わっていく。
「キザキザしい子は、ショクパ○マン。湊人くんにはアン○ンマンにはなれません〜」
小首を傾げてキミが言う。
この小悪魔と心の中でつぶやいた。
「落合は?」
僕はキミに問う。
「あたしはド○ンちゃん」
戸惑いなくそう言うから、僕は笑顔になった。
僕はショクパ○マンで、キミはド○ンちゃん?
キミは僕のこと嫌いじゃない?
ニコニコと笑い始めた僕を、不思議そうな顔でキミはみている。
「さて、休憩終わります。香夏さん、帰りましょ、教室」
僕は空いている方の手でキミの長い髪に触れた。
「あたしのセリフじゃん」
伏せられた顔の下から、ちっと舌打ちが聞こえる。
キミの体から心なし甘い香りがする。
耳が赤く染まっている。