「痛いのトンデケ」-3
「そこに、座っていい?」
「どうぞ」
俺は彼女の足の方に座った。
俺は時計とか携帯を見なくて、ただベンチに座っていただけだけど結構長い時間がたったと思う。
「なにかあったの?」
やっとそれだけ聞けた。
「なんで?」
「だって、泣いてるから。心配した」
「泣いてない」
彼女は一言、そう答える。
「じゃあ、その瞳から溢れるものはなに?」
俺が苦笑した。
「あたしの目からはダイヤモンドしかでない」
「じゃあ、それはダイヤモンドなんだ?」
「そうよ、拾うなら今のうちよ」
そこまで行って、彼女はふっと泣き顔のまま笑った。
俺もつられて笑う。ほっとした。
彼女はようやく起き上がりベンチに座った。俺も座りなおす。
俺は彼女の方を向き、右手を彼女の頭に乗せた。
「痛いのとんでけ〜」
俺は右手の手のひらにありったけの生命エネルギーを込めたつもりで言った。
「なにそれ〜」
彼女が笑う。それだけでうれしかった。
「撫でて」
彼女は俺の太ももの上に頭を乗せそう言った。いわゆる、膝枕だ。男女逆のような気がするがどうでもよかった。
髪、頬、まぶた、首筋、肩、俺は彼女を撫でた。
髪を何度もやさしく梳いた。
こういう単純な愛情を彼女はずっと欲しかったのかもしれないなと、唐突に、根拠もなく思った。
彼女は気持ち良さそうに目を閉じる。
まぶたは腫れていた。
痛いのとんでけ、
痛いのとんでけ、
彼女を撫でながら俺は繰り返し思った。