「痛いのトンデケ」-2
「あ、阿川センセーだ。」
彼女と再会したのは、3時間後だった。彼女は大学内の書店に一人でいた。
「ああ、藤谷だっけ」
「もう名前覚えてるの?スゴいね」
「ってかおまえ、先生には敬語を使え」
「えー、だって阿川センセー、先生って気がしないもん」
彼女は俺を見ながらケラケラ笑う。
昔飼ってた黒猫、タケに似ていると思ったのは気のせいかもしれない。
藤谷リカはよく笑う娘だった。
「藤谷は俺の飼ってた猫によく似てたんだ。だから覚えやすかったのかもな」
「えー、ひどーい!」
タケが亡くなったのは、俺が高二の頃くらいか。その頃俺は部活が忙しくてあんまタケに構えなかったな。タケは猫としては長生きしたほうなんだろう。
「センセ・・・?」
「あぁ・・・ってぇー!!」
ぼーっとタケのことを考えていたら本で指を切ってしまった。
「うわー、先生何やってるの。あ、私ばんそうこ持ってるから」
「あ、ありがと」
彼女が俺の中指にばんそうこをはる。
「紙で指きったら案外痛いよね〜、痛いのとんでけ」
痛いのとんでけ
その一言に、俺の胸がチクっと痛くなった。言葉の意味と逆じゃん、そう思って笑いそうになった。
「んじゃ先生さよーならー」
彼女は何かの本を買い、どこかへ行った。
「藤谷さんは今日欠席です」
2回目のゼミの集まりに藤谷は来なかった。
理由は体調不良らしい。
「あ、でも俺、藤谷見たぞー」
「えー、今日休むってメールきたよ〜」
「中庭のベンチで寝転がってたの藤谷に見えたけど」
「こんなに寒いのに中庭にいるの〜?ありえねー」
学生が話しているのを制して卒論の話をすすめた。
頭の中は藤谷しか無かったけれど。
卒論の話し合いが終わり、俺は中庭に行った。
藤谷は足をたたんでベンチに横になっていた。
彼女に近づくと、泣いていることがわかった。
わかった一瞬俺はすごくドキっとして、かける言葉が出てこなかった。