刃に心《第7話・舞台という名の戦場》-2
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翌日。涼しげな夜気に少しずつ浸り始めた演劇部部室兼練習場。
すでに他の部員は帰り、いるのは昨日と同じく朧と霞。
「こんにちは」
「お邪魔致します」
そこに主役(のスタント)を務める疾風と見学の楓が入ってきた。
「あら、楓さん。見学ですか?」
「駄目でしょうか?」
「いいえ、構いませんよ♪」
朧はパイプ椅子を差し出した。軽く頭を下げて、楓はそれに腰掛けた。
「では、これに目を通してください」
朧は白い台本を疾風に手渡した。
それを受け取った瞬間、部室の扉がバンッ!とけたたましい音をたてて開いた。
来客は何故か包帯とギプスをつけた重傷人。
「月路部長!俺はやれます!いや、やらしてください!俺はまだできます!俺は…」
シュッ…プスッ。
「あ…」
ドサッ。
額に針が刺さり、そのままぐったりと倒れ込む重傷人。
「「………」」
唖然とした表情で男と朧を交互に見る疾風と楓。
「誰ですか…その人…」
「彼は体操部で、本来、スタントはこの方にやってもらうつもりだったんですけど、数日前に事故っちゃいましてね」
ピクリとも動かない体操部のスタントを見て、疾風は少しだけ寒気を覚えた。
「演劇で…じゃないですよね?」
「はい、違いますよ♪」
満面の笑みなのに、何故か怖かった…
何か無茶苦茶怖かった…
「そ、そうですよね…」
「はい♪」
準備運動…しっかりしとこ…
引きつった笑顔で心に誓う疾風だった。
「何やら、すごく演劇をやりたがってたのだが…」
「まあ、主役だから♪」
霞は意味深な笑顔。
とにかく準備運動をしつつ、台本に目を通していく疾風。
あらすじは、骸丸という名の仮面忍者と姫様の恋物語。
バンッ!
「シイタケに聞いたぞ、疾風♪演劇やるんだってな!ほら、差し入れだ♪」
再び扉が開き、またも来客。功刀千夜子だった。
その手にはスーパーの袋にどっさりと入れられたチョコレートの数々。
見ているだけで口の中が甘ったるくなりそうな、奥歯が痛くなりそうなチョコレート達。