美しい人-3
『何か不完全なものの方が美しい。僕は君の事を理解している。あいつ、そんな事を言ったのよ。馬鹿にした話だわ。
何をもって不完全って言えるわけ?だいたい普通ってなんなのよ。私にはこれが普通なんだもの』
真っ直ぐに俺の目を見て君が言った。
『あたしね、偽善者の匂いが分かるの。だから、いつも心を鈍感にしてるの』
気の効いた言葉を言おうとした僕から視線を外して窓の外を見た君は小さく呟く。
『君の足になる…なんて、安っぽい言葉よね』
『他人の足の代わりになるなんて誰にも出来ないだろ。でも一緒に歩くことなら出来るんじゃねぇの』
『筋肉馬鹿のくせにあんたもたまにはいいこと言うのね』
『筋肉馬鹿は余計だよ。
……なぁ、絶対にお前のこと心から好きだって奴はいるぜ』
『そう?そんな人いたら、お目に掛りたいもんだわ』
興味なさ気にそう言うと君は本をパタンと閉じた。
お前はやっぱり鈍感だよ。
そう言おうと思ったが止めておいた。
『なぁ、コーヒーでも飲みに行こうぜ』
『なんだか古臭い誘い文句』
『わりーかよ。喉渇かねぇ?』
『じゃ、あんたのおごりでね』
君は、いつも通りゆっくりと立ち上がった。
鞄を持ってやろうと差し出した手を、軽く払われた。
あぁ、俺の恋路は険しいな……。
俺は小さく溜め息をついて、君の後に従って図書室のドアを開けた。
俺が君と手を繋げるようになるのは…
もっと、ずっと、ずっと後の話だ。
- END -