美しい人-2
俺は君が好きだった。
断じて同情ではない。
俺は、ただ悲しかった。
君のしなやかな躯が軋むことなく滑らかに動いたら、どんなに美しいだろうと思ったんだ。
そんな日が来ることが永久にないのだと思うことが、ただただ悲しかった。
強く、美しい人。
あの日、俺は図書室で偶然君を見掛けた。
長く艶やかな黒髪。
本に視線を走らせる伏せられた瞳には長い睫毛が影を落としていた。
君はいつも完成された絵のようだ。
いつも君を見ているだけの俺が、何故あの日だけは君に話し掛ける勇気を持てたのかな。
『あぁ〜えっと、どんな本読んでるの?』
唐突に話し掛けたクラスメートの俺に、君は怪訝そうに眉根を僅かに寄せた。
『今は中原中也の詩集。あんたは?』
『あぁ、ベースボールマガジン』
『ふぅん、で、何か用?』
『いや、あのさ……お前、2組の澤乃井の告白断ったの?』
『それが何?』
『なんで?』
『それは、こっちのセリフ。あんたこそ、なんでそんなこと聞くの?』
『いや、女はみんな澤乃井みたいなのが好きなのかと思った』
『まぁ確かにいい男だわね。でも私のタイプじゃない』
君はきっぱりと言い放った。