Bitter about youC-1
〜 Last letter 〜
「…………」
首元が熱い。
訝しく思い、晃司は薄らと目蓋を持ち上げた。
薄暗い部屋の中、壁ぎわに寄り添い一つに繋がった二人の影。
頭を乗せた繭未の腿がひんやりとしている。
繭未は長い黒髪と首をうなだれ、壁にもたれて眠っているようだ。
晃司は熱い首元に手をやった。
――…ぬるっ
粘着質の異様な手触り。
…何だこれは?
目の前に掌をかざす。
目に飛び込んだのは
薄暗い部屋ですら
鮮やかに映る、
… 赤 。
晃司の瞳孔がゆっくりと開いていく。
音をたて、勢い良く身を起こした。
その衝撃で、繭未の躰がゆっくりと傾ぎ、
とさ……
カーペットに横たわる。
その全景…
黒い髪を細い躰にまとわらせながら横たわる彼女を中心に。
カーペットも
彼女の白いワンピースも
青白い腕も
細い首も
真っ赤に染まっている。
「……………!」
自身の唇が何を発しているのかが聞こえない。
麻痺した感覚の中で、叫びも感情もぐちゃぐちゃに絡み壊れゆく。
人は悲しみの限界を超えた時、涙も声も枯れてしまうのかもしれない。
晃司は震える腕で彼女を抱き起こした。
ぱっくりと大きな溝がその首に刻まれている。
何故。
何故。
何故――…
がくがくと揺れる視界の片隅にふと、そこだけ真っ白なものが飛び込む。
繭未のふっくらとしたローズ色の唇。
晃司がプレゼントした口紅を引いたその唇が、一枚の白い紙面をくわえていた。
虚ろな眼差しで、抜き取った紙面を開く。
それは手紙だった。
彼女らしく、白いだけの紙面に短く綴った文章。
…今更滲み始めた涙に、ぼやけた字。
彼は、ゆっくりと、声に出して、それを読んだ。