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Bitter about you
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Bitter about youB-1

〜 The end of time 〜


ふわり。

冷たい欠片がふいに繭未の頬をかすめた。

「あ……」

灰と白の入り混じった空を見上げる。
溜め息のように細く洩らした言葉と白い吐息。
立ち止まり、空を見上げた繭未の漆黒の髪を、真っ白な粒がふわふわと撫でた。

「雪……」

一回り大きな白い息を吐きながら、晃司も繭未の視線を追った。
しばしそのまま二人――
無言で空を見つめる。
繋いだ手が暖かくて
そこだけ刺すような寒さが溶けていく。

「そういえば…」

晃司の呟きを。

「もう、クリスマスね」

繭未の言葉が繋いだ。

風もなく音もなく
静寂に染み渡る空と二人の間に咲く雪。
そして白く冷たい結晶は、暖かさに触れ瞬時に溶け消えていくだけ。
幻のように。
夢現つのように――…




晃司は繭未と二人でいる時、眠ってしまう事が多かった。
一人でいる間、あまり眠ることができないのだという。
目を閉ざせば悪夢に苛まれるから、とは言わない。
ただ……
そうでなくとも。
繭未に包まれていると、まるで暖かい湯槽に浸かる心地のように意識が弛緩し、
いつしか――…


繭未は自身の膝の上で小さく寝息をたてる晃司の前髪を指でそっと撫でた。
部屋の照明に照らされた銀ピアスの鈍い輝き。
暗い橙色の光源の中、鼻筋の通った彼の寝顔を静かに見下ろす。
彼の頬にぱた、ぱた…と滴り始める透明の雫を見下ろす。
…じっと見下ろす。

「…もう、終わりにしなければね」

自身の擦れた声がどこか遠くから聞こえた。
鈍い痛みを押し潰すように、目を伏せる。
…どこかが、軋んだ。

…もう終わりに。
この流行り病のような歪な現実に終焉を。
――罪には 罰を。


私の半身を奪い
私の人生を奪った
あなたへの罰を。

あなたを
殺したいほど憎んで
死にたいほど愛した
わたしへの罰を。


繭未は胸ポケットに指を忍ばせ、堅く鋭いものをゆっくりと抜き出した。
握り締めたそれは、ひどく冷たい。
頬を濡らす筋もひんやりと冷たい。
息をするのすら忘れそうになる。
晃司の寝顔に影を落とし、小さく口付けた。
そのまま…しばらく石膏のオブジェのように静止していた。

そして彼女はやがて――


…メッシュナイフを握る手に力を籠めた。


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