Bitter about youA-1
〜MAYUMI SIDE〜
――…がしゃん
背の向こうでドアの閉まる鈍い音が響いた。
後ろ手に、鍵も閉める。
そして少しの間、私はその場に竚んでいた。
気怠さを感じる躰に、細い溜息を洩らす。
ふと、ゆるゆると瞳を流し、玄関脇の靴箱に立て掛けた写真に向けた。
そこでは私と同じ顔の写真が笑顔を浮かべている。
無言で、じっと見つめた。
「…ただいま。仁未」
呟いた私の顔は、彼女とは対照的に重い笑みを浮かべていた。
『姉さん、今日ちょっとバイト長引きそう〜』
その日、携帯には仁未からの留守電が入っていた。
忘れもしない、5年前の暑い夏の夜。
開けた窓から流れ込む風の生温さを今でも覚えている。
そしてそれが仁未―…妹の最期の肉声だった。
四角く冷たく薄暗い部屋。
白い布を顔に被せられて。
仁未は眠っていた。
永遠に覚めない眠りについていた。
…両目からひどく熱い液体がとめどなく溢れる。
激しい想いを吐き出したくて
破裂しそうなほどに胸にわだかまってるのに
唇からは何の言葉を紡ぐこともできない。
小刻みに揺れる視界に映る…現実と熱と――‥
やがて薄暗かった部屋に差し込み始めた黄昏が
…何もかもを赤く染め上げていった。
二度と埋める事が出来ないほどに深く空いた穴。
片翼を失った、私には。
もう何もかも全てが意味を成さなくなった。
…―ひとつを、除いては。
「うう……」
なのに何故。
「ううう……」
やっと見つけたのに。
ただそれだけが生き甲斐だったのに。
かくかく、と瞳と指が震える。
妹を殺した犯人を
"殺す"ことだけが生き甲斐だったのに―…
その夜私は。
あなたの為に手に入れたメッシュナイフを胸ポケットから抜き出し
白い指で握り締め、さめざめと 泣いた。