光の風 〈波動篇〉-7
「ラファル、上がってけぇへんのんか?」
ラファルは座ったまま黙って上にいるカルサの方を見た。彼の視点からはカルサの姿を見ることはできない。それでもラファルは決して階段を上がろうとはしなかった。
「彼女がいうには、ラファルはここで番をしているんだそうだ。侵入者を見逃さないようにここにいるらしい。」
「で?その彼女って誰なんだよ?」
「御剣の瑛琳という女性だ。彼女は水神らしい。」
名前を聞いた瞬間、三人はカルサの部屋で話した内容を思い出していた。ナルのもとに現れた女性、彼女こそがそれである。
「なぁ。せやったら千羅っちゅう人も一緒やったんと違うんか?」
瑛琳と共に現れた千羅。紅奈は記憶のなかの人物をだし確かめようとした。
「ああ。彼は地神らしい。」
やはり思ったとおりだった。彼らは侵入者ではなくカルサの仲間だったのだ。
「少し前にオレの目の前に瑛琳が現れて、ここに連れてきてくれた。ここで来る時までカルサを守っていてほしいと。」
もうその時にはすでにカルサを護るための結界が施されていてサルスも触れることは叶わなかった。そして二人は彼の封印を解く鍵を探してくるとこの場を離れた。
その時の千羅は恐ろしいくらい無表情でただカルサだけを見ていた。固く握り締められた拳が印象に残っている。
彼がどれだけカルサを想っていたか、十分に伝わってきた。サルスには彼の知らない顔のカルサがいることを突き付けられた気分だろう。小さい頃からずっと一緒だったのに、知らない顔があったなんて。
「オレはここを護る。」
それでも彼にとってカルサは大切な存在に変わりはなかった。隠し事なんてあっても仕方ない、彼は従兄でもあり、国王でもあり、御剣でもあるのだ。
護ると決めた。この国も護ると決めた。
昔交わした約束は今でも生き続ける。これは自分で決めた事、何があっても「カルサ・トルナス」を護り続ける。
雷神であり国王でもある存在を護り続ける。
「おまえ、カルサの封印が解けたらどうするんだよ。」
「簡単な事だ。」
そう笑ってカルサを見つめた。ただそれだけ。それ以上の言葉が出される事はなかった。