光の風 〈波動篇〉-16
「行って…すぐ帰ってこれるの?」
「分からない。次元が違うから時の流れも違う、実際オレ達の世界でどれくらい経ってるのかも把握してないんだ。」
弱々しい納得の声を上げると日向は再び考えこんでしまった。それを見た千羅は、追い打ちをかけるように言葉を続ける。
「今生の別れになるかもしれない。だからこそ、決意が必要なんだ。」
千羅の言葉は深く重くのしかかった。急にそんな事言われても困るに決まっている。しかし彼らは待ってくれた。
本当ならすぐにでも帰りたいところを待ってくれた。もちろんリュナの事もあるだろうが、選択権を委ねてくれている。
どうしよう、日向の頭の中はそれでいっぱいだった。それでも。
「あの子は…もう動かしてもいいの?」
「ああ、瑛琳とオレが全力で守る。」
強い意志。彼らを仲間と最初に呼んだのは自分であると、日向は心の中で思った。
リュナを見る。覚まさない意識、濡れた頬。何度見てもリアルな白いドレスの血の跡。きっと彼らには自分に想像もつかないくらい過酷な現実が待っている。
「行くよ。」
日向の声に千羅は反応できなかった。視線はリュナに残したまま、彼は今なんといったのだろう。そんな千羅の気持ちを知ってか、今度は千羅の目を見てもう一度告げた。
「僕も行く。連れていってくれ。」
「いいのか?」
「ここに来る時に別れは済ませてきた。それに、そこが僕のルーツかもしれない。」
火の力である自分以外がそこに揃っている。もしかしたら自分もそこに居たのかもしれない。失われた自分を取り戻せるかもしれない。
自分が一体何者なのか。
「光の神を助けにいこうよ。僕にはそれができる。」
「ああ。ありがとう。」
日向の手を取り、千羅はかたく握手をした。心から喜んでいるのが分かる。
「瑛琳!」
「ええ。」
やわらかい風が止む事無く吹き続ける。服を揺らす、草木を揺らす、水面を揺らす、髪を揺らす。揺らされないのは彼らの心。
そして彼らはシードゥルサへ向かった。