恋人達の悩み8 〜文化祭〜-11
さて、それからしばらくして。
各教室の展示物を見て回っていた二人は、瀬里奈と紘平のカップルと鉢合わせしていた。
「急に姿消して、何やってたんだ?」
紘平のツッコミに、龍之介は肩をすくめる。
「保健室の留守番さ。なぁ美弥?」
いきなり話を振られた美弥は、うろたえて龍之介を見た。
「どう見ても、それ以上の事をしてるな」
美弥の反応を見た紘平は、そう言って肩をそびやかす。
「ま、若いというか熱いというか……」
同い年の紘平には、言われたくない台詞だ。
「そんな事言ってると、お前が枯れてるみたいだぞ」
だから龍之介は、ふざけ半分でそう言う。
「いやもう最近、下半身に元気がなくて……」
ニヤリと笑い、紘平はそう言った。
「下品な事言うんじゃないわよ」
今まで黙っていた瀬里奈が、紘平の脇腹に肘打ちを入れる。
「おぐぅっ」
大袈裟なリアクションを取りながら、紘平は悶えた。
「っとに……!」
呆れ顔で天を仰ぐ瀬里奈の肩に、復活した紘平は腕を回す。
「ま、そう言うなって」
瀬里奈はニヤニヤしている紘平の頬を、ごく軽くつねってやった。
「じゃ、また後でね」
二人が連れ立って行ってしまうと、美弥は肩をすくめる。
「うまくいってるね。あの二人」
「うん……あの五分の一でいいから、秋葉がすけべ根性を出せればなぁ……芝浦さんとうまくいくのにな」
龍之介の声に、美弥は苦笑した。
手を出したくても出せない秋葉と、もう少し手を出して欲しい輝里。
秋葉が根性を出しさえすれば、うまくいくカップルなのだが……肝心のそれが自他共に認めるヘタレ根性のため、輝里が満足する程にお肌が触れ合っていないというのが現実である。
どうやったら人並みに手が出せるのか、どうやったら手を出してくれるのかと、お互いに相談を受けている身なのだ。
それに対して龍之介は色々とアドバイスをしているし、美弥は輝里と一緒に秋葉をそれとなく誘惑する方法で頭を悩ませている。
ヘタレ秋葉を露骨に誘惑すれば困惑したり逃げ出したりするのは目に見えているから、それとなく誘惑する方法が必要なのだが……あまり激しくなると今度は輝里が恥ずかしくてそれどころではなくなってしまうのだから、困ったものだ。
一年以上もの間、どうやって関係を維持してきたのかと不思議に思えるくらいに、ウブウブなカップルである。
まあ……二人揃って人並み以上に奥手だからこそ、破局せずにいられたという見方もあるが。
これでどちらかが人並みだったら、おそらくはパートナーが引いてしまってうまくいかなくなっていただろう。
「ほんとにねぇ……」
最後のお客が帰る頃に体育館で後夜祭が始まったため、美弥と龍之介はお義理で体育館に顔を出していた。
「何、あんたらまだこんなとこでぐずぐずしてたの?」
二人が来たのを目ざとく見付けた瀬里奈が近付いて来ると、呆れた口調でそう言う。
「こんなとこって……」
美弥が反論しかけると、瀬里奈は龍之介の顔を指差した。
「このヤりたがってる顔見りゃ、ぐずぐずしてると言いたくなるわよ」
あからさまな指摘に美弥は頬を赤らめ、龍之介を見上げる。
美弥の目には、全く普通の平静な顔に見えた。
見るべきポイントが違うのかとも思ったが、たぶんこれは瀬里奈との人生経験の差なのだろう。
美弥には無理だが瀬里奈はその気になりさえすれば、片眉を震わせるだけで実に多くの事が語れるのだ。
「何かあったらあたしが引き受けるから、ヤるならさっさとヤッてきなさいよ」
そう言って、瀬里奈は手を振る。
変な保証をされたものの、龍之介は肩をすくめと謝意を示した。
次いで美弥の手を取り、軽く引っ張る。
「行こう」
促された美弥は、龍之介を見上げた。
「諦める気、全っ然ないからね」
きっぱりした口調に、美弥はため息をつく。
「じゃ、後はよろしく」
路子とあっさり話をつけ、龍之介は保健室を独占した。
必要な物を準備してからそそくさと美弥をベッドに引っ張り込み、抱きすくめるとつややかな唇に吸い付く。