恋人達の悩み8 〜文化祭〜-10
キイィッ………………パタッ
保健室のドアが開閉する音がしたため、美弥は動きを止めた。
次いで、カーテンを閉めているらしい物音がする。
「龍之介?」
ブラジャーを持ち上げた姿勢で、美弥は声をかけた。
返事はない。
何となく、いやぁな予感がする。
予感に従った美弥は、慌ててブラジャーを着けた。
更に制服へ手を伸ばすが……事態はもう、手遅れである。
シャッ!
いきなりカーテンが開くと……やはり、そこに龍之介が立っていた。
欲情してしまっているのが、顔付きで分かる。
「りゅーのすけ……」
清楚なデザインの下着が目に眩しい美弥を、龍之介は抱き締めた。
ハナから諦めているらしく、呆れたようなため息をついただけで体は緊張していない。
「……止める気はないのね」
「全くありません」
ドアの外には『不在』プレートを出して鍵をかけたし、覗かれないようカーテンもきちんと閉めたし、準備は万端に整っている。
「それとも、嫌?」
美弥を抱き締めた腕を使い、龍之介はブラジャーのホックを外した。
「する事そのものは、嫌じゃないんだけど……」
龍之介とのそれは相性がいいらしく、信じられないくらいに気持ち良くなれる。
だが……今の状況でイタすのは、あまり気が進まなかった。
「でも……」
美弥は言葉を濁し、龍之介の胸に頬を押し当てる。
基本的に美弥が嫌がる時は抱き合う事を断念する龍之介だが、今の態度はどちらとも判断がつきかねて戸惑いを隠せなかった。
「美弥……」
とりあえず、顎に手をかけて顔を上向かせてみる。
キスして欲しいなら、美弥は目を閉じるのだが……今日はしっかり開いていた。
「……嫌なの?」
諦めるつもりで、龍之介は問う。
「ん〜……」
微妙な返事をして、美弥は眉間に皺を寄せた。
「……今は、嫌」
その返答に、龍之介は困惑する。
「でも、後でなら…………後夜祭、出たい?」
問われた龍之介は、その質問の意図を考えた。
「後夜祭の時間帯なら、みんなあっち行くだろうから……この周辺、人がいなくなるでしょ?」
「あぁ……」
美弥の説明に、龍之介は納得する。
どうやら、自身の声の大きさを気にしていたらしい。
ちらっと時計に視線を走らせ……龍之介は頷いた。
「ほんとにいい?」
「うん」
ぼっ、と美弥は頬を染める。
「だからその……とりあえず、外に出てて」
この格好のままというのは、恥ずかしい事この上ない。
せっかく着けたブラジャーはホックが外されて宙ぶらりんの状態だし、服を着けていく過程を龍之介に見せたりすれば……せっかくかかった歯止めがぶち壊れかねない。
その辺を考えると、龍之介には外に出て貰っているべきなのだ。
その意図を理解した龍之介は頷き、抱き締めた体を手放してくるりと背を向ける。
カーテンが閉まって再び個室の状態になると、美弥は慌てて制服を身に着けた。