『 臨時バス 』-3
思い出してはいけない!
今日この時を、思い出して悔やむような、そんな人生を送ってはならない!
無性に、母と祖母の顔が見たくなった。
無性に、意味もなく何かを詫びたくなった……。
私は立ち上がると洋服の泥を払い、夜空を見上げた。
あんなに暗いと思っていた山道が、煌々と輝く満月と、満天の星に照らされている。
あの魔物とも、人ともつかぬ運転手の言葉とは裏腹に、今日この日の出来事が、すでに何か悪い夢の中の出来事のように感じ始めていた。
見上げれば、バスの消えた峠の道。
そこから枝分かれして細い下りの道がある。そのはるか彼方に暖かな街の灯が見える
私は迷わず、痛めた足と身体を引きずるように、細いつづれ折りの坂をとぼとぼと下っていった。
過ちを過ちと認めて、何もかも精算して、この街でもう一度やり直してもいい。
そんなことを思いながら……。
End