刃に心《第6話・愉快に誘拐》-8
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「疲れた…」
演劇部の部室を出たところで、疾風の身体が大きく傾いた。
「お、おい、疾風!大丈夫なのか?」
楓が慌てて疾風を支える。
「足…痛い…悪い…肩貸して…」
最後の本気が効いた。足の筋肉、関節、靭帯、その他諸々が悲鳴を上げる。
「ああ…勿論だ」
疾風は痺れる右腕を楓の肩に回し、身体を引きずりながら、ふらふらと家路についた。
「あ〜あ…靴…卸したてだったのに…」
底が磨り減った靴をさらに磨りながら歩を進める。
「悪いな…」
「いや、私は少し眠らされていただけだから大丈夫だ。それに私だって鍛えている」
力強く、楓は疾風の身体を支えた。
「私の肩なら幾らでも貸そう。だが、無理はしないでくれ…私も……疾風が大切だから…」
赤くなった顔を見られないように楓は疾風の顔から視線を逸らした。
「嬉しかったぞ…」
囁きにも似た細く小さな声で一言。
疾風の身体に己の身体を寄せる。
「あ、あのさ…もう少し離れてくれると歩きやすいんだけど…」
疾風の顔にも楓の赤が感染。だが、楓が離れる気配はない。
「…お前がふらふらとしていて危ないからだ…」
口調は厳しい。
「それに今回、私の出番なんて最初と最後だけではないか…」
だが、文句を言いつつも疾風の『大切な人』という言葉の温もりに思わず、頬の筋肉は緩んでしまう楓であった。
続く…