刃に心《第6話・愉快に誘拐》-7
「安心しろ。プロレス技は兄妹喧嘩では一般的だから」
「いやああ!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!それに普通、兄妹喧嘩でキャメルクラッチはありえないからあ!」
「うるさい!ウチは一般家庭じゃねえ!」
「言ってることがさっきと違う!!兄貴が、兄貴が残虐超人になった!引き裂かれるぅ!真っ二つにされるぅ!」
「問答無用」
「ぎにゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!」
「ふざけるのもいい加減にしろ!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさ〜い………」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「折れ…折れるかと思った…」
虫の息の霞。何とか上半身と下半身は繋がっている。
「自業自得だ。で、本来の目的は?ただのドッキリって訳じゃないんでしょう?」
「まずは数々のご無礼お許しください」
朧は丁寧に頭を下げた。
「聞けば、疾風さんは問題処理屋として数々の依頼を解決していらっしゃるそうですね」
「まあ…そうです」
「失礼だとは思いますが、今日はその実力を測らせていただきました。その疾風さんの素晴らしい実力を見込んで頼みがあるんです」
朧は真っ直ぐに疾風を見つめた。
その真摯な瞳に疾風は思わず唾を飲み込んだ。
ゴクリ…という音が響き、緊張がはしる。
「今度の演劇に出て下さい!」
疾風はずっこけた。芸人のような完璧なフォームでずっこけた。
「そ、そんなんでいいんですか?」
「はい!」
こけた疾風に対して、朧は未だに真摯な瞳を疾風に向けている。冗談ではないようだ。
疾風はしばし、黙考した。
「すみません、ちょっと時間が欲しいんですけど…明後日くらいまで…」
「分かりました。では明後日まで答えをお待ちしております。今日は大変申し訳ありませんでした」
再び深々と一礼。
「霞、遅くならないうちに帰ってこいよ」
霞は恨めしそうに疾風を見たが、すぐにがっくりと突っ伏した。
「それじゃあ…楓、帰ろう」
楓はまだぼんやりと夢見るような表情で疾風の後に続いた。