刃に心《第6話・愉快に誘拐》-6
「こっちですよ」
同時に朧の背後で疾風の声。辺りには少し焦げ臭い匂いが立ち込める。
「ッ…」
朧の首筋にヒンヤリとした刃が添えられた。
疾風は消えたのではなかった。
ただ、一歩で横に動き…
さらに一歩で朧の背後に回っただけ。
たった二歩を異常な速度で移動しただけ。
その証拠に疾風の靴と床の摩擦跡がくっきりと残っている。
「…ぁ…ぁあ…」
「これが《風刃》の忍足の力です」
「…で、出鱈目…ですね」
「出鱈目ですよ。俺も貴女も」
動かない…
「…私の目に狂いはなかった…」
動けない…
「目的が何なのかしりませんけど───」
「俺は大切な人を傷つける者を誰であろうと容赦はしない」
朧の額から冷たい汗が一筋滴る。それが頬を伝い、地に落ちた。
「ちょっ、ちょっとストップ!!」
その途端、勢いよく霞が部室内に飛び込んで来た。
「疾風…そんなに私のことを…」
楓が頬をほんのりと赤らめながら、霞の後ろでそう呟いた。
「あ、兄貴、これはちょっとした冗談なの!」
えらく慌てた様子。それに対して疾風は…
「…そんなことだろうと思ったよ」
ゆっくりと腕を降ろし、刃を納めた。
「気付いてたの?」
霞は頓狂な声を上げた。
「ああ」
「何処から?」
「最初の電話から怪しいと思ってた」
そう言うと霞を手招き。恐る恐る霞がそれに近付いた。
「なぁ〜に、怒ってないから」
にっこり微笑んで疾風は霞の腕を掴んだ。
「目が…目が笑ってないんですけど…」
その瞬間、霞の視界が一回転。そのまま俯せに倒れる。
「いったぁあ!」
急いで身体を起こそうとするが動かない…動けない…
「あ、兄貴…何をしようとしていらっしゃるのでしょうか…?」
「お前…憧れの人はブロッ○ンマンだって言ってたよな?」
霞の上に乗った疾風は霞の顎に手を掛けた。
此所からはドメスティックでバイオレンスになりますので、音声のみでお楽しみ下さい…
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……
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