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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第6話・愉快に誘拐》-5

◆◇◆◇◆◇◆◇

中は薄暗かった。
光源は窓からの月明りのみ。
部屋の中央で淡い光に照らされた人影一つ。ロープで拘束された朧がいた。

「疾風さん!」

朧が驚いた様な声を上げた。

「先輩…楓と霞は?」
「ごめんなさい…分かりません…」

朧は顔を伏せた。月明りを受ける顔は悲壮感を醸し出している。

「すみません…これ…解いてくれませんか?」

朧は目線を自らを拘束する縄に向けた。

「嫌です」

そんな朧に疾風はポツリと言った。

「解きにいって、ぶすり…なんて洒落になりませんから。先輩なんでしょう?犯人」

訳が分からないといった表情をする朧に対して、疾風は一定の距離をとって構えた。

「………」
「………くすっ♪」

朧の顔から悲壮感が消え、代わりにクスクスといった含み笑い。

「私もまだまだですね」

スルッとロープから抜け、朧が立ち上がった。

「大正解、御名答、ピンポ〜ンピンポ〜ン、といったところでしょうか…その通りです♪犯人は私、《薬師》月路朧」
「……楓は何処ですか…?」
「さあ?何処でしょう?私に力づくで聞いてみます?私、強引なの嫌いじゃないですよ♪」

あくまでも微笑みを絶やさない朧。

「でも、左手一本で倒せる程、私は弱くはないと自負していますけど♪」

そう言って、朧は素早くポケットから針を放った。
疾風はそれを旋回して躱し、そのまま左の裏拳を繰り出す。

「くすっ♪だから言ったのに」

疾風の拳をゆっくりと包み込むようにいなした。そして鳩尾に掌底を打ち込む。

「ぐぅ…」

思わず呻き声を上げる疾風。だが、追撃をくらわぬよう、間合いだけはしっかりととった。
朧は離れた疾風にまた針を放ち、翻弄する。

「その程度なんですか?《風刃》の忍び名が泣いちゃいますよ?」

タタタ…と小気味良い音をたて、針が床を穿つ。

「私の見込み違いだったんですか?」
「先輩…」
「どうしました?」

針を避けながら疾風が言葉を発した。

「何を勘違いしているんですか?」

疾風の姿が朧の視界から消えた。

「!?」

朧が驚いた瞬間、ギャギャッと床を何かが擦るような…否、抉り、削るような音がした。


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