大切なもの-5
『ねーねーっ。昨日話した男、今日朝あいさつされちゃった〜。玄関でばったり会ってさぁ、ほんと仕方ないからあいさつしたけど、なんか喜んじゃってた〜』
「え〜なにそいつ、気持ち悪〜い。なんて名前??」
『知らなぁい、名前言ってたけどわすれちゃった。男なんて顔ばっかり見てくるんだもん、やになる〜』
「あはは、そういうあんたが一番面食いじゃん」
笑い合う女子たち。
まわりに聞こえるほどではないが、明らかにひろはるのことだと分かった。
…。
…。
…。
「ぉぃ」
「ぇ…」
俺に気付く宮田。
笑っていた表情が一気にこわ張った。
「な、なによ?」
「…誰の話してんだ??」
「な、なにあんたっ」
「悪い、友達は黙っててくれるか」
おれは表情を変えずに言った。
女の子はたじろぐ。
「宮田。お前、今の話本気で言ってんのか」
『き、聞いてたの?!…サイテーっ』
「構わねぇよ。お前みたいなやつに俺の友達はもったいねー、クズには似合わねーよ」
『あ、あの男の友達なの??ふーん、だからなによっ。結局あんたも同じ類いねっ。人の話を盗み聞きするんだから!!男なんていつもそうよ、陰でぐちぐち、情けないのよ!!』
──プツン。
「うるせーっ!!人を性別なんつーくくりでまとめんじゃねー!!何が男なんてだ。でかいまとまりだけでほんとに大事なもんはなにもみえてねー。お前らみたいのが一番むかつくんだよ!!2度と同じこというんじゃねーぞ!!」
──ポカン。
宮田たちだけでなく、廊下にいたやつがすべて、こちらに注目。
「…少なくともひろはるはちげーよ…あんたには、一生かかってもあいつの良さはわかんねーだろうよ」
あっけにとられる宮田たちを残して、俺は掃除ロッカーに道具を入れると教室に戻った。
イスに座るとまわりが心配して声をかけてくれたが、興奮は治まらなかった。