『 初恋 』-2
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ギリギリで間に合って、飛び乗った満員の車両。
あなたは一つ隣りのドアに、窮屈そうにもたれ、外を見てる。
昔、遊んでて木から落ちた、あの時の傷、まだおでこに残ってる?
懐かしさと同じくらい、こみ上げる苦い想いが、重く胸をふさいでく。
みんなバラバラになったあの夏の日、二人が育った養護施設の門を出たあの日から、あなたはどんな暮らし、してきたんだろう……。
※ ※ ※
「20分経過、体温24度」
患者の体温は、いつ蘇生が始まってもおかしくないレベルにまで近づいている。
やり場のないもどかしさに、誰も口を開こうとはしない。
ふいに、患者がはぁっと息をついた。
モニターに心臓の痙攣的な動きを示す波形が走った。
「除細動器は?」
スタッフの一人が勢いこんで訊く。
主任医師はがぶりを振った。
「まだだ。心臓が細動を起こしてるわけじゃない。もうすこし待とう」
一回きりの浅い呼吸、気まぐれな心筋の痙攣――その後、患者はふたたび死の世界へと引き戻された。
「28分経過。30度。正常な体温域に入りました」
二度、三度と現れる心臓の痙攣的な拍動は、パルスが短く不規則で、肺の反応も、筋肉の収縮もみられない。
「彼女はどうしても最後の一線を飛び越えられずにいるんだ」
※ ※ ※
三つ目の駅で降りたあなたは、少し急ぎ足で階段を上っていく。
追いかけて、呼び止めて、何て言えばいい? 久しぶり、わたしのこと覚えてる?
そんな台詞怖くて聞けない。
施設を出てからしばらくは、みんなで手紙のやりとりをしてた。
それも一人減り、二人減り、いつの間にかみんな音信不通になった。
噂であなたのことを知った。ずいぶん苛められて、辛い思いをしたって。
苦しかったよね。悲しかったよね。手にとるようにわかる。
だって私も同じだったから……