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痛みキャンディ
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痛みキャンディ3-2

待つ人の孤独は期待と背中合わせだ。 
その孤独が大きい程、出会った時の歓びは大きい。

時間や距離という隔たりがあれはある程愛しい出会い。 
待ちわびるその瞬間は痛みの中藻掻き苦しむのだろう。 
いつ来るか。 
いつ来るか。と 
時計と改札ばかりを気にしながら。 

それは強い約束ならその分だけ待つ淋しさも一層膨らむ。 

おれは思い出した。 

遥か昔、保育園で。 
母を待ちわびていた夕暮れ時。 
その日母は残業でいくら待っても迎えにこなかった。 
最初は友達と待つことも忘れ遊んでいた。 
しかし 
段々と一人二人と優しい表情の迎えに飛び切りの笑顔で友達は帰ってゆく。 
おれはそれを悔しい思いで見送った。 

そしていよいよおれだけになった。 
道を眺めても迎えは来ない。 
あの優しい手でおれを握り締めてくれる母の姿はない。 

おれは不覚にも泣きだしていた。 
「お母さん…」

涙で景色も見えなくなった。 
暗くなる闇を恐れた。 

おれは忘れ去られた存在なの? 
必要とされない子なの? 
涙は止まらない。 

どれだけ… 
どれだけ泣いただろうか。 

おれを呼びながら駆け寄る母の姿が見えた。 
そしておれはその胸に飛び込み顔を埋めた。 
あの安心感を今まで忘れてしまっていた。 
あの無限の愛情も優しさもいつしか求めなくなっていた。 
壁をつくってしまった。

愛を拒む強がりでどれだけ母を哀しませただろう。 
もう後悔しても遅すぎる。 
もう過去は帰ってこないから。 

飴の魔力は強大だ。 
おれは不覚にもまたもや涙を流す。 
隣なりのおじいさんも心配そうにおれを見つめる。 
おれは涙を拭きもせずに待合室を出ようとしたその時… 

「おじぃちゃぁん!」 
と5才くらいの女の子が隣なりにいたおじいさんに駆け寄った。 
後ろからは40代に差し掛かった位の品の良い女性が立っていた。 

「父さんすみませんでした…」

女性は涙目でおじいさんを見つめた。 

「ずっと待っておったよ。」
そう言うと満面の笑みで孫娘を抱き締めた。 

よかった… 


迎えが来たんだな。 
そのおじいさんの表情が遠い思い出の中の母と重なった。 
胸が熱くなった。 

おれは何かを思い出したのだろう。 
それは痛みの中に隠れたやさしさだったに違いない。 

クゥの待つアパートへとおれは向かった。


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