隣人のち恋人、ときどき変人。-4
シュウタクンハタダノゲートモダカラ。
タダノゲートモ。
あの夢の困り顔に押しつぶされそう。
ダ、ダメだダメだ、自然に振る舞わないと……。
『…佑香ちゃん来てたんだ。…今何時?』
天井の蛍光灯が眩しい。
目が眩みそうになる。
「今はねぇ〜…、7時過ぎたとこ。
…もぉ〜、風邪ひいちゃうよ〜…そろそろ冬なんだから…。」
『そっか。かなり寝ちゃってたんだな…、俺。』
ゆっくり起き上がり、ぼさぼさになった髪型を軽く整える。
すると、その一連の動作を見ていた佑香ちゃんがクスっと微笑んだ。
「…秀太君は昔から寝起きの動作が変わらないよね。
起きたらまず髪をくしゃくしゃぁ〜ってするの。
それでね、その次は決まって両手で頬を叩くんだよ。…ほら。」
俺はそう言われて、慌てて頬を叩きかけてた両腕を降ろした。
あははっ、と、さもおかしそうに笑う可愛い笑顔。
……やばい、心臓の鼓動がグンっと早まったのがわかる。
どうか佑香ちゃんに聞こえませんように。
「別にやめなくてもいいのに〜…。
…もしかして気を悪くしちゃった…?」
『い、いや、別にそんなことない、ないよ、全く…。』
「そっか。それならいいんだけどね!」
そう言うと、あっ、と何やら思い出したように鞄を探る佑香ちゃん。
何か2言、3言呟きながら探し物をしてるようだったが、
俺の意識は朦朧としていて、彼女の言葉は耳に全く入ってこなかった。
『…好きなんだけど。佑香ちゃんのこと好きなんだけど。」
……言っちゃった。
早くなっていた心臓がそのスピードをいっそう早まったのを感じた。
バクバクと動く心臓は留まることを知らずに脈を刻み続ける。
早くなりすぎて止まりそう。
息が苦しい。
無言のまま固まっていた彼女はやっとこさ意識を取り戻し、
「…へ?好きって……あの好きってこと…?」
と、弱々しい声で問いかける。
『たぶん…、その好きってこと。』
真っ直ぐ目を見れずに、佑香ちゃんがもじもじと動かす手を見つめる。
…指、白くて細くてすっげ〜綺麗。
「それって誰が…、誰のこと……?」
『俺が、佑香ちゃんのこと、好きなの。』
俺の口から出た言葉は自分でも驚くくらい予想外に力強かった。
『今更なんだよ、って思うかも知れないけど、本気で好き。
ずっとあなたのことが好きでした。』
そう言い終えて、真っ直ぐ目を見る。
いよいよピークに達する心臓の鼓動。
佑香ちゃんの目は未だに虚ろで、慌ただしく宙を泳いでいた。
「わ、私も秀太君のこと好きだけど、
そ、そう、そうゆうこと考えてなかったからなんて言えばいいのか…。
………で、でも私もきっと同じ気持ちだよ。秀太君のこと好き…。」
佑香ちゃんはそう蚊の鳴くような声で言うと、
照れ隠しからか、慌てて後ろを向いた。
その動作があまりにも可愛かったので、思わず笑いが溢れてしまう。
初めて俺の方から抱きしめたその体は壊れそうなくらい華奢なのに、
どこか心地のいいぬくもりがあった。
『好き…。』
耳元でそっと呟く。
彼女はゆっくりと振り返り、それから優しく微笑んだ…。