隣人のち恋人、ときどき変人。-2
……うーん、そうだな、…可愛い人だと思うよ、この人は。
うん、神楽佑香はお世辞じゃなくほんとうに可愛い人だと思う。
整った顔立ちに、ツヤのある髪、
年上だけどちょっとちっさい身長にこの眼鏡。
…恥ずかしながら重度の眼鏡フェチである俺の中で、
この人はもう、間違いなく120点満点の女性と言えるだろう。
今すぐ抱きしめたいくらい可愛いっス、真面目に。
…ただ、問題にすべき点はこの性格と趣味にあったりするわけで。
この神楽佑香と言う女性は、筋金入りの天然少女。
そして同時にどうしようもないほどの超・ゲームオタクなのである。
…もう、お分かりになっただろうか。
この人は、俺を今ハマってる格闘ゲームの対戦相手にするためだけに、
学校から帰ってくるなり、部活でクタクタの俺の部屋を訪れ、
さっさとゲームを始めようと言うのだ。
あほかっ。
でも、こんな生活がずっと続いていたりするのも事実なわけで。
もういい加減、この人の性格と行動にも慣れたとは言え、
その天然っぷりとゲーム大好きからくる言動には、
今もしばしば軽い疲労を覚えることもある。
いや、俺だってゲームするのは好きだよ。
一人の時に部屋でやることと言えば大抵ゲームか漫画なわけだし。
ただこの人の「ゲームをする」と言うのは、
常人の「ゲームをする」感覚を逸脱しているのだ。
そこまで言うのなら断ればいいではないか、とお思いかも知れないが、
そこは俺もなんだかんだで暇人。
それにゲームは一人でやるよりも、
例えこんな相手でも2人以上でやるのがベターというものだろう。
…はぁ。
……こんな言い訳を大二朗達が聞いたらなんと言うだろうか…。
ピコピコ…ドガガガガッ。
「…それでね、その先生がにっくき里子にこう言ったの。
お前の方がアヒルみたいな顔してるって。…ふふふ、おかしいで
しょ〜?」
ピコピコピコ…ドンドンッッ。
『…え?つ〜か…今の笑うとこ…あった?』
ドスンッ、ドガガガッ、ピコッ、……ドド〜ン。
「…もぉ〜…だからねぇ〜…あ、また勝っちゃった〜。」
…さぞおかしな光景だろう。
真っ暗な部屋でブラウン管に向かって並んで座り、
AVラックの中に収納されたゲーム機から伸びるコントローラーで、
ひたすらバトルを繰り返す若者2人の後ろ姿は。
ふと時計をみるともうゲームを始めてから1時間ちょいが過ぎていた。
『…佑香ちゃん、疲れたからちょっと休憩しませ〜ん?』
キャラクター選択画面を嬉々として見つめながら、
「次は誰でやろうかな〜。」
なんて無邪気に微笑んでる横顔にそう問いかける。
「ダメだなぁ…。そんなんじゃぁ、12月の大会で上位に入れない
ぞ〜。」
『いや、入らなくていいんですけど。
っていうか、そもそもそんな大会に出るなんていつ僕が言ったでしょうか。
そしてついでに言うなら、ゲームをやる時は電気を消すという習慣は、
僕の部屋ではやめてもらえないものでしょうか。
僕の視力は下がる一方で、このままでは僕の方も眼鏡になりそうです。』
…と、心の中で激しくツッコミを入れつつも口には出さず、
『冷たいもんでも取ってくるよ。』
と言うと、俺はそそくさと部屋を後にした。
『…っつーわけで寝不足なのよ。』
次の日の学校、俺は昼食を取りながら友人2人に昨日の愚痴をこぼしていた。
昨日は結局、あれからお母んが用意してくれた夕ご飯を2人で食べたのち、
再び1時間ほどバトルを繰り広げ、彼女はやっと帰ったのだった。