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ふぉあしー
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ふぉあしーB〜黄昏に揺れる影〜-8

世界は全て『因果』によって成り立っている。
この法則のことを『因果律』と言う。
しかし全ての『因果』が等価値に存在しているわけではない。
価値の低い『因果』もあれば、価値の高い『因果』もある。
こうした『因果』の持つ価値のことを『因果率』と呼ぶ。
『因果率』の高い『因果』に干渉して、それを改変するのは困難である。
人の生き死にという『因果』は比較的高い『因果率』を持つので、これに直接干渉しても結果を容易に変えることはできない。
例えば、ある人がある交差点で交通事故に遭って死ぬという『因果』に直接干渉してこれを防いだとしても、その人は次の交差点で事故に遭って死ぬだけなのだ。
この『因果』を改変するにはどうすればいいのだろうか?
それはこの『因果』に間接的に関係する『因果率』の低い『因果』を改変していき、それらの『因果率』の合計が改変したい『因果』の『因果率』と同じかそれ以上になればよい。
但し、先程挙げた例はあくまで例に過ぎず、実際には人一人の生き死にぐらいならば、直接干渉しても充分に改変できる。
しかしそれが10人以上の人間の生き死にとなるとどうなるだろうか?



男は着ぐるみの中からサブマシンガンを取り出す。
それはH&K MP5という名のサブマシンガンで、とにかく多くの弾丸を打ち出すのが目的であるサブマシンガンにしては高い命中力を誇り、アメリカの特殊部隊も装備している代物である。
男はその銃口を子供達の群れにポイントし、トリガーを引いた。
マーチのように軽快な音の連続がテーマパークの喧騒の中に響く。
しかし男が期待した鮮血のワルツは見られなかった。
トリガーを引く寸前に何らかの力によって銃口を黄昏の空に向けられていたのだ。
男は着ぐるみの瞳ごしに見る。
その力の出所を。
そして気付く。
白い杖を持った少年に自分の腕が蹴りあげられていたことに。
男はすぐさま跳ね上げられた腕を戻し、少年の額に照準を合わせ、トリガーを引く。
全長500?、重量2.53?のH&K MP5を易々と振り回す男もすごいが、しかし少年――駆の動きはそれよりも速かった。
引き金が引かれる前に杖を銃身に当てて銃口を自分の額からそらし、当て身を繰り出したのだ。
男はバックステップでそれをかわし、すぐさま右脚での蹴りを放つ。
だが駆は杖で男の蹴りを受けとめた。

(何!?どうなってやがる!?このガキ、恐らく見えてないのに)

俺が目の見えないのにもかかわらずこんなに戦えるのは今は亡き祖父のおかげだ。
祖父は合気道の師範であり、俺は幼い頃から祖父に鍛えられていた。
目が見えなくなってからはその修行も激しさを増した。
今思えばあのつらい修行は、目が見えなくてもある程度やれるようにという祖父の思いやりだったのだろう。
そのおかげで敵の殺気を察知して動きの先読みをしたり、空気の流れの僅かな変化を感知して敵の攻撃を避けたりすることができるようになったのだ。
普段の生活でも充分役立っているこの能力を実戦で使う羽目になるとは思いもしなかったが。


そして一瞬止まっていた二人が同時に動き出す。
男は再びバックステップで駆との距離をとり、駆は杖を投げ捨てて男に向かっていく。

恐らく次の一瞬で決まる。

二人は同時にそう思った。
そして実際その通りになった。

駆はH&K MP5の射線を尽くかいくぐり、男の懐に入った。
男は袖と襟首を掴まれ、宙に放り投げられる。
ただただ朱くて紅い空だけが着ぐるみごしの双眸に映る。
宙を舞っていたのはたった数秒。
しかし何分にも感じられる長い時を経て、男の身体は鈍い音とともに地面に叩きつけられた。
落下の衝撃で気を失った男を十数人の警察官――恐らく恵か咲姫先輩が通報したのだろう――が取り囲み、連行していった。


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