『 ONE-SIX club 』-2
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『ONE-SIX』の店内は人いきれと煙草の煙でむせ返るようだった。
ゲームのある日は、どこで聞き付けるのかいつも満員になる。
男も女も、安全な場所から、スリルと興奮の分け前を、わずかでも持ち帰ろうとする輩ばかり。
この感覚は、このテーブルを前に座って初めて体感できるものだ。『死』に触れ、『死』を操ってこその快感を、手も伸ばさず、ギラギラした目でもの欲しげに見つめるだけの羊達の群れ。
俺は相手を待っていた。
少し遅れて現れた男は、背が高く、黒ずくめでツバの広い帽子をかぶり、大きなサングラスとマスクをしていた。
どうやら身元を隠しておきたいらしい。負ければ臆病者と蔑まれ、この界隈を歩けなくなる。勝負の前からその用心じゃ、はなから勝負は決まってる。
いつものように、相手がコインを投げる。
青白い手が優雅に振られ、コインはテーブルの中央で静かに回り、やがて表を上にして止まった。
俺が先か……。幸先がいい。
銀色に輝くリボルバーを手にすると、ぞわぞわと泡立つ歓喜の波が押し寄せてくる。
これだ!この感覚!
俺は手のひらでシリンダーを回し、こめかみに当て一気に引き金をひこうとしたその瞬間、冷たい手で心臓をわしづかみにされたような衝撃で、のけぞり、癲癇を起こした子供のように身体が固まった。
俺は何を見ている?
相手の男でもない。店内にいる客や、窓から見える外の景色でもない。
俺の目は、シリンダーの中にある銃弾が、ハンマーの前に装填され、発射を待っているのが、ありありと見えた。
この一発を撃てば必ず死ぬという『実感』が、ギリギリと心臓をしめつけ、息もできず、どっと汗が吹き出した。
スリルや興奮とは違う震えが全身をおおい、銃をこめかみから離そうとしても、手はますます銃口を頭に押しつけ、指が引き金をひこうとする。
たすけて……、
声にならない叫びが喉を詰まらせ、涙が頬を伝い、顎の先からしたたり落ちて、太股を濡らす。
死にたくない……、
気持ちとは裏腹に、指が引き金を絞りはじめる。
たすけて……、
たすけて……、兄さん!
手はギリギリ握り締められ、ハンマーが落ちた。
カツン……。
気を失い、テーブルに突っ伏すその瞬間、黒ずくめの男が差し出した左手の小指に、金色に光る指輪を、見た気がした……。