贈り物-1
「地球ができたって事が奇跡って言われてるくらいだから、僕たちの出会いはもっとすごい奇跡なんだろうね。」
尚太は笑ってそう言う。
「さぁ、考えたこともないわ。あなたの中はいつも奇跡でいっぱいね。」
呆れたように圭子はいう。「そりゃそうさ!僕は奇跡を体験してるんだから」
『また、いつものあれの話に持っていってしまった』と圭子は後悔した。普段無口な彼があれの話になると面白いように話だす。
「そうだね、あれは、小学校のクリスマスだった」
いつものような穏やかな口調で彼の話が始まった。
「そう、僕はあの時ひどい風邪をこじらせていたんだ。親は僕を置いて食事に行ってたよ。なんせ彼等の結婚記念日がクリスマスだからね。
僕は夜が来るのが待ちどおしかった。だってサンタさんがくるからね。
風邪薬のお陰で、すぐに真夜中になったよ。気付けば外が異様に明るくて、引き込まれるように僕は窓に向かったよ。
そしたら居たんだよ!サンタさんが。
『君の心は少し脆い所がある。だからね。君にはこれを…』
差し出されたソレは手にとると凄く暖かった。
『それは君の一番強く願うものを真実にしてくれる。使い方は君次第だ。』
僕は人の心が知りたかった。だから僕は暖かいソレを耳に近付けた。そこで一旦記憶は途切れるんだ。」
尚太はコーヒーで口を潤した。
「目が覚めると普段と違うことが一つだけ。母親の思ってることが聞こえるようになってたことさ。夢じゃない!サンタは本当にいたって思った時だったよ。
それは学校が始まっても一緒だった。なぜか女子の感情だけ聞こえた。そして中学で君に出会った。君の心はいつも歌で溢れていた。英詩ばかりだったから、すごく君に惹かれてった。そしてこの力はいらないと思った。そしたら徐々に速度を上げて力は消えて行った。きっと僕はもうその力がなくても生きていけるようになって、君を好きになったからだと思ったよ。心が聞こえる前から女性とは一線を引いていたしね。
そして君に告白した。答えは…今の関係だよね。」
尚太が話終った。
圭子は尚太との今までを思い出していた。中学に告白されて高校のときに初めてサトリだったって言われて、試しに『理科の時間は何を考えてた?』って聞いたら『圭子はいつも歌ってた』って言った。それから私を意識するようになってからは聞こえなくなったとそして告白されたこと、素直に嬉しかったこと喧嘩したこと…
「おーい…圭子さーん」
呼ばれる声に気付いて現実に戻る。そして、彼は言う。
「そろそろ圭子の家に挨拶に行く時間だよ」
尚太は笑った。
「そうね。で結局サンタはどんな人だったの?」
圭子はまだそれを一回も聞いてなかった。
「それはね、男の人じゃなくてすごい優しそうな女性だったよ。圭子みたいに。」
サンタさん、僕は今凄く幸せです!