闇よ美しく舞へ、演目別舞台 『座敷童子』-1
岩手県のある村に座敷童子(ざしきわらし)の出る民宿があると聞く。
ここのところ続いているオカルトブームに便乗して、我が編集社でも奇々怪々な出来事を特集しようと、有名な心霊スポットを物色していたときの事である。新人編集者の『望月』が『座敷童子(ざしきわらし)』の話しを持ち出したのが、きっかけだった。
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「つまりその座敷…… 何とかを取材しに明日から岩手まで行くって言うのね」
妻は相変わらず、僕が取材で家を空けると言い出すと、嫌な顔をする。それも仕方がないのかもしれない。
当時は大学内でも1位2位を競うほどの美女と言われた僕の妻。出身は秋田県の山奥だと聞くが。
秋田には秋田美人なる言葉があるように、顔立ちの整った彼女はキャンパス内でもマドンナであり、男共の憧れの的だった。
とあるコンパがキッカケで、同じ秋田県出身と言う事もあり、僕が彼女の意中を射止めると、彼女に気が有った男共からはその後、そうとうな嫉みの嵐を食らったもんだが、それも事無きを得て僕は彼女と結婚。今と成っては、良い自慢話かもしれない。
そんな妻とも早5年。いまだ新婚気分は抜けきれずと言ったところなのだろうか、休みの日になると妻は今でも僕に甘えてくる。
無理も無い。大学を卒業と同時に僕と結婚、その後は仕事で家を留守にすることが多い僕に代わって、ずっと家を守って来てくれたのだから。
それに彼女は良く出来た妻で有り、文句を言う訳でもなく、僕に尽くしてくれる。これが幸せでないなどと思ったことはないし、僕もこの生活になんら不満も無かった。
唯一、僕らの中に欠けている物と言えば、子供が居ないと言う事だろう。それが不幸なのか、運がいいのか解からないが、そのことを妻とて不平に思っている様子は無い。
休みの時は良く二人で出かけたものである。映画に旅行にショッピング、お互いまだまだ遊びたい年頃ではある。だが遊んでばかりも居られない。弱小2流出版社の編集者としては、朝から晩までネタを追っかけねば成らないことだってある。
そんな折に、ここのところおかしな取材旅行が続いたせいもあり、僕は家を空けがちだった。僕に構ってもらえず、妻もそれを気にしているらしい。なんだか最近、妻の態度が冷たいのもそのせいだろう。
「そう言えばさ、君の実家の秋田でも座敷童子の出る家の噂話ぐらいあるんじゃねーの」
僕は妻のご機嫌を伺いながら、さりげなくそんな話しを彼女に振る。
「あるわけ無いじゃん。そんなの迷信にきまってるわよ」
思ったとおり、妻の返答は素っ気無い。
「あっそっ」
ぼくも素っ気無く答えていた。
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重たい機材を担ぎ、新幹線と在来線、タクシーを乗り継ぎ目的の民宿へとたどり着いた時にはとっぷりと日も落ちて、もはや当たりは真っ暗だった。
それでも久しぶりに訪れた客に、寂(さび)れた民宿を営む老夫婦も常時笑みを絶やさず、暖かく僕とスタッフの望月以下3名を迎えてくれた。
早速老夫婦の進めにより、僕たちは『座敷童子(ざしき わらし)』が出ると言う噂の部屋へと案内され、部屋中に撮影用の機材を置かせてもらい、僕と望月の二人がその部屋で一夜を過ごすこととなった。
「しかし随分とにぎやかな部屋ですよね、ここ。こんなんで本当に座敷童子なんか出るんですかね」
「さあねぇ」
部屋にはこれまでに訪れた客が童子にと持って来た送り物なのだろうか、人形やら洋服やらアクセサリーやらが部屋中に飾られていた。みると子供用の小さい振袖の着物まである。けして安い品ではないだろう。