壁時計-6
湯上がりの素肌にエッセンシャルオイルを擦り込み、髪をブローし、薄化粧をした茉琳が出てくると、浜本は長椅子に寝そべっていた。小さなテーブルの上にひしゃげたビール缶が転がっている。身を起こした浜本が
「何か、飲み物は……?」
と尋ねてきた。待ちかねたのか、目のあたりが心なしか充血している。茉琳が
「んー、冷たいワイン」
と答えると、浜本は立ち上がって出してきてくれた。
「ああ、おいしい」
一気にグラスの半分以上のスパークリングワインを飲み干した茉琳は、浜本の方を見て
「あんまり出てくるのが遅いから、もしかして、明日のプレゼンのこと考えてた?」
といたずらっぽい顔で聞く。浜本は首を何回も横に振り、長椅子真ん中に座っている茉琳の方に身を寄せてきた。
「狩野さんのことばかり」
「うそ」
二人は同時に笑い声を上げた。バスローブ姿の茉琳は長椅子から立ち上がり、今度はベッドの端に腰を下ろす。
「私の何を、考えていたの?」
そう畳みかけると、浜本は茉琳を追うように近寄ると、床に膝を突き、ベッドの上の茉琳の腰を両手で抱き、頭を膝の上に乗せてくる。
「どんな躯、してるのかなって」
茉琳はそう言う浜本の髪を撫でた。
「『どんな躯』って、躯のどこが……あ、ごめんなさい」
浜本に何かを言いかけた茉琳は、途中で胸を押さえる。茉琳の胃の中に充満したワインの気泡が大きなゲップになった。驚いて頭を上げた浜本の呆然とした顔を見て、茉琳は吹き出した。それにつられて浜本も笑った。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
恥ずかしさに真っ赤になって顔を両手で覆う茉琳。浜本はベッドに上がってきてその肩を抱いた。
「そういうところが、たまんなく可愛い」
そう言いながら、浜本は茉琳の顔を引き寄せて唇を重ねる。ビールの苦味が伝わってきた。
「さっき、なんて言おうとしたの?」
浜本が尋ねた。空いた手は茉琳の腰を愛撫している。
「え?」
夢見心地の顔をして、茉琳が聞き返した。
「さっき言おうとしていたこと」
「ああ。んーと、『私の躯のどこが気になるの?』って」
「そりゃ、全部。でも、とりあえずは、ここ」
茉琳の腰をあたりをさまよっていた浜本の手が、茉琳の胸をまさぐってくる。
「……大きい。すごく、張っている」
「んん……」
茉琳は返事ともため息ともつかない声を出した。
「直に、触っていい?」
浜本の問いかけに、茉琳はコクンとうなずく。最初はおずおずと、次第に大胆に浜本の手が茉琳の胸の隆起を揉みしだいていく。茉琳の呼吸がだんだんと荒くなった。上体を後ろに倒し、両腕で支えるようにして浜本の愛撫を受け入れている。
やがて、浜本は両手でグイと茉琳のバスローブの襟を広げ、中に片手を突っ込むとすくい上げるようにして、椀を伏せたような丸い乳房の全景を露わにした。華奢な躯に比べて、不相応なくらい大きく盛り上がった隆起。しかし、男は別のところに目を奪われていた。
「わあ、すごい綺麗な、ピンク色」
茉琳の乳首を見て、浜本は感嘆したように声を上げた。
「ピンと尖っていて、先っぽのところがクルッと、何か、渦巻いているようで」
「そんな風に言われると」
茉琳が小さく喘ぐように言う。
「おかしくなってしまいそう」
茉琳は浜本の首に両手を回した。浜本は茉琳の躯をゆっくりとベッドの上に下ろしていく。
茉琳の白い首筋に舌を這わせ、唇を押しつけた浜本は顔を上げ、
「すごくいい香りがする」
と告げた。茉琳の熱い柔肌からエッセンシャルオイルに含まれるサンダルウッドが揮発し、ベッドの上の二人に催淫効果をかけ始めているのだ。
「ああ、いい気持ち……」
乳房の上を這う浜本の舌と唇が、微妙な動きで茉琳の性感を高めていく。躯の中心で、体液をいっぱい含んだ海綿がギュッと搾られ、躯じゅうの穴という穴から吹き出してくるような感覚だ。
そのとき、浜本の手が下半身をまさぐり、バスローブの裾から太腿に進んでくるのを、茉琳は感じた。柔肌を愛でつつ、下肢を自然に開かせ、更に奥に進もうとしている。もし、その手がすでにしとどに濡れそぼっている花園に達したら……
反射的に茉琳は、浜本の首筋から顎にかけてキスをしながら身を起こした。