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壁時計
【熟女/人妻 官能小説】

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壁時計-4

酔いがほどよく回ってきた岡部の笑い声を聞きながら、箕田のがっしりした体を盾に、茉琳は遠くに移動した。そのとき、戸口の方で再び拍手と、歓声が上がった。社長が出るらしい。幾人かの者がそれに続く。茉琳はその流れとは逆に、もといたカウンターの方を目指した。

「あら、マリン、残念ね。ボスがあなたのことを探していたわ」

カウンターの中にいた春奈が茉琳を見つけて言った。

「ああ、そう」

茉琳は特に残念だとは思わなかった。

「代わりにマキがついていったの」

そう言って、春奈は水割りの残りを飲み干した。そこへ社員が3人ばかり、ニヤニヤしながらカウンターの前に来た。

「すいませーん。水割り、ください」

「濃いめ、濃いめ」

「コイツのだけ、濃くしてください」

とまどいつつ、茉琳と春奈は水割りを作った。しかし、それだけでは彼らは立ち去らない。

「じゃ、乾杯しましょうよ」

「ささ、入れて、入れて」

「ソーレ、ソレソレ……」

いかにも狎れ狎れしさが鼻をつく。確たる証拠があるわけではないが、さっきトイレの前で下卑た会話をしていたのがこの3人ではないかと茉琳は思った。

 バシッ。

 怒りの形相でカウンターの表面を叩いたのは、春奈である。ただならぬ勢いに酔いを吹き飛ばされた男達は、悪戯を叱られた子どものようにカウンターから離れていった。
 春奈と目を合わせた茉琳は、音をさせないように静かに拍手をした。しかし、もし音を立てたとしても、二人以外には聞こえなかっただろう。人はいくらか少なくなったものの、大音響があたりを圧していた。

「こういう騒がしいのは嫌い。どこか静かなところで飲み直そうか?」

 茉琳の仕草に微笑を浮かべて、春奈はそう誘ってきた。しかし、茉琳は小さく首を横に振った。

「ごめん。私、もう眠くて」

茉琳は軽くあくびをする振りをした。

「もう、本当に健康優良児なんだから。……じゃ、私、先に帰るけど、どうする?」

春奈はそう言ってカウンターをくぐった。茉琳はあわてて

「私も帰る」

と言って春奈の後に続いた。

「でも、こんな打ち上げをやることに、どれだけ意味があるのかなぁ」

 外に出ると、春奈は茉琳に話しかけてくる。

「うん……」

「ただの馬鹿騒ぎだよね。社員の結束が固まっているとはとても思えないし」

「そうねぇ……」

 夜の繁華街はようやくこれから活気づく頃である。春奈は交差点で立ち止まり、

「マリン、気をつけて帰りなよ。駅はあっちだから」

と指さした。茉琳は

「うん、ありがと」

と春奈に手を振った。春奈は信号が青に変わった先へと足早に歩き出す。茉琳は流れる人波の中、立ち止まってその後ろ姿を追っていた。視線が届かないところまで見送った後、もと来た方向に目を向けた茉琳は、そちらから浜本が歩いてくるのを見た。茉琳は、近づいてきた浜本に、微笑を浮かべて言った。

「ああいう騒がしいのは嫌い。どこか静かなところで飲み直しましょうか?」


 ショットバーの奥まった丸テーブルに、茉琳と浜本は並んで座った。洞窟のような壁の一部がくりぬかれて棚になっており、一面に酒の瓶が並べられている。二人はグラスをチンと鳴らした。

「大丈夫よ。普段の調子でやればいいの。できるわよ」

姉が末の弟を元気づけるようにそう言って、茉琳は甘いラム酒を口に運んだ。浜本はスコッチが入ったグラスを傾けて、小さくうなずいた後、

「なんか、こんな風に飲んでるのが、信じられない」

と独り言のように言った。

「なぁに、どうして?」

茉琳のくすぐるような問いかけに浜本は困ったような笑みを見せて、

「だって、自分が、こんな、人妻と二人きりで、飲んでるなんて」

「同じ会社の人と仕事の話をすることの、どこがおかしいの?」

「いや、そうじゃなくて、その、……緊張しちゃって」

「フフ、明日のプレゼンと今と、どっちが緊張する?」

「ん……今」

 茉琳は、浜本の答えに天を仰いで笑った。テーブルの上の蝋燭の明かりに照らされた茉琳の白い喉笛を見て、浜本の喉がゴクリと鳴った。


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