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壁時計
【熟女/人妻 官能小説】

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壁時計-22

とうとう最後の日が来た。秘書室で茉琳は、満紀を相手に業務の引き継ぎをしていた。

「あーあ、狩野さんともお別れなんですね」

 仕事の引き継ぎが一段落したとき、満紀はため息混じりに言った。結局、茉琳は派遣契約を延長せず、今日が最後になる。春奈とともに契約を延長する道を選んだ満紀は、明日から秘書室に移ることになったのだ。

「ホントにごめんねぇ」

 茉琳は胸の前で手を合わせて謝る。

「いいです。でも、私、狩野さんは延長すると思っていたんですよぉ」

 まだ満紀は恨みがましく言う。茉琳が声を落として

「で、マキちゃん、手術することにしたの?」

と聞くと、満紀は首を横に振って

「当分延期します。次の彼にフラレるまで」

と答えた。茉琳は笑った。

「狩野さん、次の会社決まったら、メールください。私もそこに移るようにしますから」

 やはり笑顔でそう言う満紀に

「うん」

と茉琳が答えたとき、秘書室に3、4人の作業員が畳んだ段ボール箱を載せた台車を押してやってきた。岡部の部屋を開けてどやどやと入っていく。

「どうしたの、あれ?」

 満紀が聞く。

「うーん、よく分からないけど……」

 そう言えば、週明けから岡部は出社していなかった。

「ねえ、知ってた?」

 そのとき、秘書室の社員の一人が訳知り顔で茉琳と満紀のところに近づいてきた。

「いいえ、何か?」

と茉琳が聞くと、その社員は

「岡部次長ね、クビになったみたいよ」

と声を潜めていった。

「えっ!」慌てて茉琳は口を押さえた。「クビ?」

 社員はうなずいた。

「取引先の業者と結託して会社の金をちょろまかしていたみたいなの」
 
 茉琳はすぐピンときたが、満紀はその件については関心がなく、

「岡部さんって、どんな顔だったっけ?」

などと聞いてきた。茉琳は説明するのに窮してしまい

「典型的なスケベ顔よ」

と耳打ちすると、満紀は唇をすぼめて

「ふーん、じゃ、あの人ね」

と一人で納得したようだった。


 終業時、職場の人々への別れの挨拶に少々時間がかかってしまい、春奈のいる部署に着いたときは、彼女はすでに会社を後にしていた。

「いい出会いがあるといいね」

 最後のランチをしたとき、茉琳がそう言うと、

「マリンみたいな人には、もう会えない気がする」

と春奈は言って、笑った。 

「そういう意味じゃなくって」

と首を振る茉琳に春奈は、

「私は、そういう意味で、言ったの」

と茉琳の手に手を重ねてきた。
 そのときの手のぬくもりを思い出しながら、茉琳は会社を出て、ボンボンと食事の約束をしたレストランに向かう。その途中で、その春奈からメールが入った。

(狩野令夫人さま、いろいろとお世話になりました。会うとつらくなるので、メールで失礼します)

 雑踏の中をたゆたいながら、茉琳はメールを繰り返し読んだ。その文面が、泣いている。

 いったんは春奈へ返信をしようと文章を書きかけた茉琳だったが、途中で手を止め、全部を消去した。そして、天を仰ぎ、2、3度頭を振り払うようにすると、足早に地下鉄の駅の階段を駆け下りていった。(了) 


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