壁時計-16
春奈のキスを受けながら、茉琳は上体を後ろに倒し、クッションに身を委ねた。折り重なるように上になった春奈は、茉琳の顎の下から首筋へと唇を這わせる。胸を揉む手、股間に押しつけられる膝、どれもが男の動きとは違っている。何枚もの木の葉が、さわさわと柔肌の上を舞っているようだ。全身の力を抜くと、心臓がドクドクと脈打つ音が頭の中でこだました。
「こういうの、いや?」
顔を上げた春奈が、耳元で囁く。
「ううん。気持ちいい」
目を開けて、茉琳は答えた。春奈は左半身を下にして茉琳の横に寝そべると、右手で茉琳のパジャマのボタンを一つ外し、手を胸に差し入れる。茉琳は思わずため息を漏らしてしまう。
「マリンの肌、ツルツルしてるよね。スタイルもいいし」
春奈はそう言いながら茉琳の胸の隆起をなぞるように指を滑らせる。
「この胸の手術をしたの、もしかして、ダンナさん?」
「……うん。彼、美容外科医なの」
「そうだと思った。……上手ね」
春奈は両方の乳房を揉み上げるようにする。茉琳は小さく鼻を鳴らした。
「で、でもね……やっぱり、自然の、お乳には、負けるわ。ほ、豊胸すると、か、たくなるし、わかっちゃうし、ね」
「ううん、綺麗よ。愛する人に綺麗になってもらいたいって、気持ちを感じるわ。私のなんて、恥ずかしくて、見せられやしない」
「そんなことないよぉ。ハーちゃんだって……」
「この年になるとね、愛されているかどうかで、女の躯は変わるのよ」
春奈は茉琳の言葉を遮るように言い、顔を寄せて茉琳の耳朶を舐った。
「ハーちゃん、昔からずっと……?」
性感を甘くくすぐられて最後の言葉を呑み込んでしまったが、春奈は茉琳の質問の意味を理解したようだ。口を離して「うん」とうなずき、愛撫を続けながら話し始めた。
「私の父はね、怒りっぽくてすぐ暴力を振るうんで、家の中で母はいつもびくびくしてた。父が母に手を上げようとすると、私が母をかばって、弟が父に飛びかかっていったりして、子どもが協力して母を守っていた。冷血な人、父は。今でも憎くて憎くてたまらない」
春奈は茉琳のパジャマのボタンを更に外し、鎖骨をなぞりながら肩から胸に掛けての肌を露わにしていく。
「中学2年の時に、そんな父と母がセックスしているのを見ちゃったの。父はね、父らしく乱暴だった。母の髪を掴んで頭を引き回してみたり、首絞めたり、嬲りものにしてね。『全然感じないぞ』とか『もっと締めろ、締まらないのか』とか、とても口に出しては言えない汚い言葉で母を罵りながら腰を振って。母は父に組み敷かれながら獣じみた声を上げてた。そういうことの知識はあったんだけど、とっても醜くて、吐き気がした。これが現実ならこんなの絶対、イヤだと思った。母のことも嫌いになった」
ここで一息ついた春奈は茉琳の額に軽くキスをする。
「そんなことがあった翌日か、その次の日かな、私、当時バレーボールやってたんだけど、部室のベンチに座って、シューズの紐を結んでた。そしたら、先輩に後ろから抱きしめられて。その先輩は背が高くて、かっこいいなと思っていた人、もちろん女よ。胸を優しく揉まれて『春奈、好き』って言われて、あ、先輩だ、と思ったときには、片方の手がブルマーの上から丘の膨らみを撫でられて、『はぅん』って声出しちゃった。そしたら、慌てて口を押さえられて」
春奈の手は臍からさらに下へやわやわと這っていく。
「私、やばい、ここで中断されたくない、もっとして欲しいと思ったのね。そしたら先輩は、誰にも気づいてないのに安心したのか、キスしてくれた。それまでね、私、キスが汚いものだとばかり思ってて、だって、他人の唾とか飲めるかよ、なんて。でも先輩のキス、とても上手くいの。口の端っこの方から唇の裏側まで舌で舐められて、とろけそうになっちゃった。そしたら、プッシィのところを人差し指でグイグイ掻き上げるようにされて、首のけぞらせて喘いじゃって」
春奈は少し間を置いて茉琳の反応を確かめた。目を閉じ、口を悩ましげに半開きにして甘い吐息をついている。
「その弾みにね、プッシィを指に押しつけたもんだから、『春奈、感じてるのね』って言われて、もう、たがが外れたって感じで、先輩の手首を掴んでクリのところにもっていって『先輩、ここ、ここ』って自分からおねだりしちゃったの。先輩、『優しくちょこちょこしてあげる』って言ってくれたんだけど、やっぱりそこは刺激が強すぎて、ものすごく暴れちゃって。もう悶え死にするかと思った」
春奈の手は、パンティの上から、茉琳を愛撫している。ちょうど春奈が先輩で、茉琳が春奈になっていた。