嘘と約束-1
う〜・・・頭がなんだかまだくらくらする・・・。
今朝の通勤ははっきり言って堪えた。
昨夜の会社の飲み会で、どうやらあたしは酒に飲まれてしまったらしい。
一体どうやって家までたどり着いたのかさえ覚えていない。
痛む頭を押さえながら、挨拶を交わしいつものように自分の席に座りパソコンを立ち上げた。
画面に映し出されるモニターがいつもよりチカチカしている気さえする。
ふいに背後に気配を感じ振り返ると、主任がちょっと困ったような表情で立っていた。
「主任?」
何かミスでもしたんだろうか?そう思い、主任の顔をじぃっと見ていると
「杉本さん・・・。今日から俺ら、付き合うんだったよな?」
小声で主任に突然言われ、あたしはその場で固まった。
は・・・?何?何で・・・?
頭の中で自問自答を繰り返す。
「もしかして、昨日のこと覚えてないとか?」
試すような口ぶりに、思わず
「お・・・覚えてますよ。」
これが、あたし杉本 葵と前島 智哉の始まりだった。
・・・どうやら飲み会の帰り道、あたしは主任に告白をしたらしい。
で、それに主任は了承した。
告白をした、と言うが本当は、酔っ払っていて何も覚えていないわけで。
だけど・・・酒に飲まれて何も覚えていない、なんて恥ずかしくて言えなかった。
主任の座っているデスクに目をやる。
主任は正直かっこいい。上に立つだけあって仕事もできるし、人望も厚い。
面倒見も良くて誰からも好かれている。パソコンを弾く長い指とか、デスクに座っている姿さえきりっとしていて高嶺の花のような存在で・・・。
きっと彼を狙っている人もたくさんいる筈で・・・。
・・・ってあたしは何を考えてるんだ?
こんなことになってしまったからか、妙に主任を意識してしまう。
それにしても、そんな彼があたしの告白を了承するなんて。
天変地異の前触れ?というか気まぐれなのだろうか?
じっ・・・と見ていたらあたしの視線に気付いたのか、主任と目が合った。
にっこりといつもの口角を上げる笑顔。
見られていたのがばれて、なんだか恥ずかしくて目を泳がせてしまう。
「一緒に帰らないか?」
トン、とあたしのデスクに手を置いて聞かれる。
・・・気付けば終業時間・・・。
なんだか今日はあっという間に過ぎた気さえする。
「はい・・・。」
慌てて荷物をまとめた。
会社の入り口で合流し、並んで駅までの道を歩く。
「確か・・・2駅目だったよな?」
確認するように呟く。
2駅目・・・。それはあたしの家のある駅。
主任ともなると部下の家がある駅まで把握しているのか?