投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

嘘と約束
【その他 恋愛小説】

嘘と約束の最初へ 嘘と約束 1 嘘と約束 3 嘘と約束の最後へ

嘘と約束-2

いつもの電車。
いつもと変わらず帰宅ラッシュで車内は混んでいる。
でも・・・。
いつもは押されて苦しいのに、今日は主任の腕に守られて自分の周りに空間が作られている。
主任は、辛くないのだろうか。
心配になり顔を上げると
「大丈夫か?」
逆に心配されてしまった。
「はい、大丈夫です。」
自分を見る瞳が今までと違って優しくて、思わず目を反らす。
15分ほど電車に揺られ、自宅のある駅に着く。
それじゃ、おやすみなさい。そう声をかけようとしたが、主任も一緒に電車を降りた。
「杉本さんの家まで送るよ。」
意外だった。
なんかもっとさっぱりした付き合いをしそうだと思っていたから。
彼女には電車で守るように立っていたり、家まで送ったり。
・・・あんな優しい顔もするんだ・・・。


「送って頂いて、ありがとうございました。」
ぺこり、とお辞儀をしながら御礼を言う。
「葵。」
ふいに名前で呼ばれ、心臓が弾む。
「どうかしましたか?主任。」
「あー・・・。できれば、なんだ。付き合ってるんだから『主任』じゃなくて名前で呼んでもらえると嬉しいんだけど。あと敬語も無しで。」
首の後ろに手をやりながら恥ずかしそうに言ってきた。
なんか普段のきりっとした感じではなく・・・なんていうか・・・。
「智哉さん?」
告げた途端、照れくさそうに破顔した。
その顔は反則・・・。
きっと、きっとこんな智哉さんの表情、滅多に見られない。
普段とのギャップが手伝ってか、やけに胸がざわつく。
今、あたしの顔は多分真っ赤だ。
智哉さんには暗いから見えてないだろうけど。
何これ・・・?


部屋に入ってからも、どきどきが治まらない。
「あんな表情・・・見せてくれるんだ・・・。」
それが、自分が名を呼んだから、という事実で更に嬉しさがこみ上げる。

智哉さん、智哉さん・・・。

呪文のように何度も彼の名を呟きながら、夢の中に入っていった。


朝、目覚めても昨日のことが夢のことのようで。
なんだかふわふわした気分のまま駅に向かう。
「葵、おはよう。」
一体いつからいたのだろう。
待ち合わせもしていないのに、智哉さんは駅にいた。
ただ、壁に凭れて立っているだけなのに。
ただ、挨拶をしてきただけなのに。
どきどきどき・・・
昨日のように優しい笑顔を見せられ、心地よい幸せを感じる。


その日も一緒に帰る。
なんだか皆の知らない彼のいろいろな表情を見られて優越感。
同時にそんな表情を知っているのはあたしだけでいい、という独占欲。
もっと智哉さんと一緒にいたい。
もっ智哉さんのことを知りたい。
この感情の名前をあたしは知っている・・・。

「葵。」
気付けば家の前に着いていた。
名前を呼ばれ見上げると、柔らかいキスが降ってきた。
「・・・あ・・・。」
「これも恋人の役得ってやつだな。」
普段より子供っぽい、悪戯っ子のように笑う。

好き・・・。
智哉さんのことが・・・好き。
確信してしまった。
「それじゃ、おやすみ。また明日な。」
触れた唇にそっと手を当てる。
「おやすみ、なさい。」


嘘と約束の最初へ 嘘と約束 1 嘘と約束 3 嘘と約束の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前