oneシーンU-4
「あ、次で降りるね」
「え、次?」
「あたしはそっちのが近いんだよ」
「ふーん」
窓の外を見ると虹がかかっていて、二人で声を揃えて『あ、虹!』なんて言って笑った。
駅に近づき、千春が席をたつ。
甘い残り香が懐かしさを呼ぶ。
とっさに名前を呼んだ。
「千春!」
「ん?」
席を離れ、千春の側へ歩み寄る。
「…………」
「…何?」
「あ、えっと…」
「何なのよ?」
「悪るかったな、かっこ悪いとこ見せて」
鼻を軽くかきながら照れかくしをする俺に千春はにっこり微笑んだ。
「何言ってんの!辛いことに悩んでるときの男って最高にかっこいいよ」
「……嘘だ」
「本当だって」
「ありがとな」
髪をかきあげながら微笑む千春は最高に美人だった。
ドアが開き風が吹き込んできた。
片手をあげ「またね」と千春は電車を降りた。
ドアが閉まり、次の駅へ動き出す。
俺はその場にしゃがみ込んで、髪をくしゃくしゃっとかいた。
本当はさっき、アドレスを聞こうとした。
昔、携帯が壊れてから聞きそびれてしまったままだったから。
だけど、聞かなかった。
手を出すなと言わんばかりに薬指に光るものがあったから。